恋の罪

Vと人形なD♀
特殊注意


生まれつき弱くさえなければ、俺は兄貴と一緒に生まれてくる筈だった。

俺は結局、母のお腹の中で力尽きてしまい、一人だけになった兄貴が生まれた。俺の死を悲しんだ母は水子供養として女の子の人形を作り、まだ赤ん坊の兄貴がいるベビーベッドの横に添えてくれた。

それからすぐ、何故か俺の魂は人形に宿すようになった。人形の体では動けないけど、まあとにかく、兄貴が元気に育つ姿をずっと見ているだけで幸せだった。共に生きている感じがしたからだ。

兄貴は朝になるといつも俺に向かって、「おはよう、ダンテ」と話しかける。何も喋りもしないただの人形に、律儀に。そこが兄貴の可愛らしいところだと思う。

俺だっておはようバージル、って言いたい。作り物の髪を撫でてくれるように、この手でバージルの頬に触れたかった。

自分がこの世に生を受けなかったことが、悔しくて悲しくて、とても辛い。



ある日、兄貴は同い年位の女の子を部屋に入れてきた。きれいな黒髪をした可愛らしい子だった。

「バージル、捨てないのこの人形。ぼろぼろで気味悪いわ」

ちぇ、悪かったな。

「大切なものなんだ」

兄貴は窓辺にいた俺を持ち上げ、壁際の椅子に乗せてくれた。


もとに戻り、バージルは女の子に軽くキスをした。バージルも二十歳が近い、きっといつまでもこの家には居ないだろう。

一人立ちは良いこと。喜んであげなくちゃな。

なら今度こそ俺は、ぼろぼろの粗末なお人形になっちまうな。

別にいいけど。

バージル、もう帰ってこないのか。

別に、寂しくないさ。これは良いことなんだから。

寂しくない。




さみしいよ。








「ダンテ、ただいま」

久しぶりに声を聞いた。

あれから5年くらい経ったろうか、バージルはすっかり精悍な姿をしていた。

身体中がほつれ虫にたかられている俺を大事そうに持ち上げると、裁縫箱を開いた。

虫を指ではらいながら、はみ出た藁をハサミで切り落とし、傷口を縫い止めていく。

「ずっと一人にしてすまなかった」

兄貴は変わらず俺に向けて話しかけた。優しい、優しい、俺の、唯一の。



ずっと待ってた。あんたとまた暮らせるなんて、俺は幸福者だ。

「ああ。ずっと二人で暮らそう」

何だよ、聞こえてるじゃないか。







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