真昼の月みたいに
ネロアン初代♀
ネロアン独白、R18
長い夢が突然覚めたような気分だったが、夢の内容はもう忘れていた。ふと横を見ると、若い女がベッドに寄りかかるように眠っている。
長い睫毛が光で透けている。それに触れたくなり手を伸ばしたら、女の目がゆっくり開いた。
女はすぐに顔を上げて俺をじっと凝視した後、涙をこぼし始めた。何故泣いているのか分からなくて、どうすればいいか考えあぐねていると、女に抱き締められた。柔らかくて心地よかった。
身体中に鈍痛があり、どうやら俺は大怪我を負っているらしい。でも、何も思い出せない。
自分が何者なのか、
どこで生まれ、
何をしていたのか。
全く思い出せないのだ。
ダンテと名乗った女は、無理に思い出そうとしなくても、少しずつ元に戻るはずだと言い、甲斐甲斐しく看病をしてくれた。健気に振る舞う彼女の姿に、俺は次第に心を奪われていった。
俺達は恋人同士だったのか?と聞くと、ダンテは真っ赤になって俯き、本当に何も覚えてないんだなと呟いた。
俺はダンテの手をとり口付けた。好きだと一言告げ、反応を待った。だが、ダンテは悲しげに目を伏せるだけで、何も応えてはくれなかった。その理由が知りたかったが、聞き出す勇気はなかった。これ以上彼女を悲しませる訳にはいかない。
少しずつ歩けるようになったので、ダンテに連れ出してもらい、初めて外の空気を吸った。街から少し離れた、緑の目立つ土地だった。
誰も居ない道を二人で歩いて行く。俺はダンテの手をそっと握り、ダンテが慌てふためいても知らぬふりをした。
道端に美しい花が自生していたため、それを手折って彼女の前に差し出す。
きれいだ。お前とよく似ていると口にしただけだった。ダンテは喜ぶ所か、涙を耐えながら口を抑えていた。
"そんなもの、俺に向けてはいけない。それはこの先いつか現れる女性の為に、とっておくべきだ。"
俺は首を振って、彼女を抱き締めた。俺は彼女さえいれば何もいらない。そう思いながら。
夜になりベッドで横になっていると、ダンテが寝室の中へ入ってきた。
ダンテは俺がいるベッドの上に乗り、黒い服を脱ぎ捨てた。闇の中でなだらかな肢体が浮かび上がる。
応えてくれたのがただ嬉しくて、何度も俺は名前を呼んだ。彼女の腰に手を回すと、頭の何処かで希っていた口付けが静かに落ちた。
彼女は切ない顔で俺の名を呼んだ。
ここの所、調子が良くない。
頭の中で知らない誰かが囁いてくる。体が熱くなって、彼女の首に何度か手をかけたことがあった。何故かは分からない。原因自体、掴みようがなかった。
俺はダンテと共にいたい。ただ、それだけなのに。