枯芙蓉

子ネロとD♀
3→1と時間流れます、暗め




その赤子は、兄貴が魔界に落ちて一年も経たない内に近所の路地裏に置き去りにされていた。

看板も掲げたばかりだったのに、面倒な出来事だった。黒い布を広げ赤子の姿を確認したら、まさか、自分と同じ髪だったなんて思ってもみないだろ。

この髪を気味悪がる連中だっている。このまま放置すればどうなるかなんて、知れた話だ。

頭をたれ、深くため息をついた。






それから五年、ネロは走り回れる位に成長した。母親なんてつとまるかよって途方にくれていた自分が今じゃ懐かしい。

ネロは主張をしない。けれど子供らしく甘いものを与えれば宝石みたいに目を輝かせるし、一度依頼のついでで遠出に連れてってやった時は喜んでいた。

エンツォに寄れば、フォルトゥナっていうすこぶる治安の良い都市に子供を預かる修道院があるらしいが、設備がしっかりしていて評判がいいそうだ。こんな不健全なスラムで過ごすよりも、同年代の子供たちと教育を受け遊んだ方がずっとましだ。


「ネロ、学校に行くか?」
「がっこう?」
「そうだ、お前と同じ年の子達がいて、きっと楽しいさ。フォルトゥナは遠いから、しばらくは会えなくなっちまうけど…」


「会えないの、やだ…」

ネロは首を振って、俺の腹にしがみついた。しまったと思った。

こいつの親は一人しかいない。

でも。







雨の降りそうな日、ネロは二階の窓を締め切ると一階へ降りた。

ところが、先ほどデスクで愛銃のメンテナンスをしていたダンテがフロアで横たわっており、ネロは慌てて駆け寄り揺さぶった。

血の気の引いた顔を見て、ネロは涙を滲ませ名前を呼び続ける。


すると、ダンテの閉じられた瞼がゆっくり開いた。

「ネロ、……大丈夫。
疲れてて、眠っちまった」

何事もなかったかのように彼女は起き上がる。ネロの頭を撫で、だから泣くなと告げた。

「ダンテ、ベッドにいこう」
「もう眠くないって。なぁ、そろそろ昼飯にするか?」
「いらない…」

ネロは泣き腫らした目で言い、すがり付いて耳打ちした。ダンテは困ったように微笑んでから「ごめんな」と呟くと、しがみついたままのネロを抱えて二階に上がった。






依頼でしばらく帰れない。飯はいつも行ってるバーのマスターに食わしてもらえ。

報酬が入ったら、そうだな。また遠出をしよう。今度はお前の好きな所へ連れてってやるよ。






未だ帰らないダンテの代わりに、ネロの前へ現れたのは、知らない男だった。男はダンテと容貌がよく似ていた。

事務所に日頃よく訪れる為、今では顔見知りであるレディが付き添うように彼の隣に立っていた。


「ネロ、この人はあなたの本当の父親よ。
だから、これからはこの人と一緒に暮らしなさい」

ネロは両目を涙で潤ませる。しかしそれは、父と対面できたからではなく、そこにダンテがいないという事に対してだった。

「ダンテは、……ダンテはいつ帰って来るの」

ネロの言葉に、レディは悲しみを堪えるように顔を背けた。

「ダンテは、もう帰って来ないわ」
「うそだよ。だって、」

行きたい所へ連れてってくれるって、約束したのに。

うそだ、うそだと泣きじゃくる幼子を男が抱き上げるのを、レディはただ黙って見守ることしかできなかった。

辺りは冷たい風が吹き、雪ばかりが降り積もる。







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