鉄槌

パラレル、♀2様←2NxKyrie
きりえ鬼畜なのでイメージ壊したくない人は注意して下さい





乾いた音が耳に響いても、ダンテは頬を抑える事すらせずただ俯いていた。

殴った女性は涙を浮かべて彼女を睨みつけていた。どうやら、夫の不貞に気付けなかった己のふがいなさ以上に、目の前にいる女が憎かったらしい。

ダンテにはかつてバージルという夫がいた。夫は実の兄でありながらも、事実婚として幸せに暮らしていた。しかしバージルはまだ19だった頃、既に娼婦に子供をはらませていた。

それがネロだった。

赤子だったネロは拾ってくれた義理の両親に逞しく育てられ、17の頃、キリエという女性と愛を誓い合った。その筈だった。

ダンテがネロと出会ったのは、街中によくある何の変哲もない路上だった。その晩、杖をついて歩くダンテを若い上流の男達が取り囲み、慰み物にしようとしていた。品定めをするように尻や腰やらを触られ、片腕を掴まれた所を、一人の男が割って入ってきた。

当然ながら男達はその一人に殴りかかろうと向かったが、その男は向かってくる凶器や拳を軽々とさけると、いとも簡単に彼らの急所に拳を叩き込み気絶させた。

「こんな遅くに出歩く奴があるかよ」

ネロは呆れた顔でダンテにそう告げる。ダンテはペンダントを取り出し、「これを探していたんだ」と小さく答えた。

「明日にでも探せただろう」
「大切な形見だ」

ダンテは首を振って、ペンダントを懐にしまう。ネロはダンテの白い横顔を見つめ、一目惚れした。さっきの男達は最低だが、こんなに美しい女が目の前にいたら思わず口説いてしまいそうになる。

そこから関係が始まり、いつしか二人は肉体的な関係も持つようになった。ネロが騎士階級を持ち、妻帯者である事を知っていたダンテは最初は拒否した。そんな彼女の主張をネロは聞かず、何度も愛の言葉を告げてはドレスの下に隠れた柔肌を暴こうと両手で弄った。

ダンテが彼に抵抗できないのにも理由はあった。それはネロが余りにも亡き夫と瓜二つだったからだ。顔立ちや佇まいだけではなく、性格も、声も、ふとした仕草すらも、兄バージルに共通する部分が多くあった。




「あなたは悪魔よ」

涙を浮かべたキリエは、動けないままでいるダンテに罵声を浴びせた。

「もう、彼に付き纏わないで!もう二度と目の前に現れないで…!」

涙が彼女の頬を伝い、落ちる。


"涙は人間の宝だと誰かが言っていたが、それすら一つこぼせない自分は、本当の意味で悪魔なのかも知れない。"



高い位置に結われた亜麻色の髪がさらりと揺れる。ダンテは純粋にそれを美しいと思った。

それは自身の愚かさを悟り、受け入れた証だった。







街外れにある深い森の中に、広い湖がある。ダンテはそこへ訪れた。

まだ若かったダンテとバージルが永遠を誓った、思い出の場所だ。確かその時は、嬉しさのあまり泣いていたような気がして、ダンテの表情がそっと緩む。

彼女はペンダントを手にした。赤い輝きを見せるそれは、バージルがこの場所で彼女に贈った唯一のプレゼントだった。

ダンテは泣かなかった。若い時には沢山泣いたりも笑ったりもしたが、バージルが亡くなってしまった時から一切泣かなくなってしまった。

涙すら枯れ果ててしまったのだ。



彼女は胸のペンダントを強く握りしめ、背を向けたまま湖に身を投げた。

綺麗な飛沫が舞い、その肉体は誰にも見つかる事のない水底に、預けるように沈んだ。

この世に残したネロの幸せを願うように。






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