A lady in a dress.
レディと若♀。テメンニグルから1年経った話
「久し振りにあったかと思えば、服を着たあんたに会えるとは思わなかったわ」
「けっ、悪かったな。あんな事があったんだ。俺だって、いつまでもヤンチャじゃいられないさ」
そりゃね、とレディは肩を竦めて答えた。
「そういえば、あんたって一体いくつよ」
「ん?一昨日、20になった」
「へえ、誕生日だったのね。……ああ、良い事思いついたわ」
「何だよ。もう鉛玉のプレゼントはごめんだぜ…」
「そんな訳ないでしょ」
「どこに行くんだよ」
「黙ってついて来て」
何故かダンテは彼女に、半ば強制的に街まで連れ出された。
「あんたもしかして、前より背が伸びてる?」
「あー、まあ…多分な」
「悪魔の血って凄まじいわね…あ、これとか良いかも」
女は自分に合った化粧をして、着飾る生き物だ。という事はダンテも理解していたが、レディはその中でも特にセンスが良いと彼女は思った。
レディが手にとったのは、目にも鮮やかな深紅の革製のコートだ。派手でいながら、シンプルな構造のものだった。
「すげーイカすぜ!」
忽ち気に入ったダンテは嬉々としてコートに袖を通す。大柄な女性でも着られるように作られているのか、彼女の体躯に丁度良くフィットした。
「はしゃがないで、大人なんだから」
ダンテは思わず閉口した。
+ + +
「化粧はしないの?」
「うーん、あんまりしない。グロス塗る位かな」
「その顔立ちなら、そんなに化粧しなくても大丈夫ね。じっとしてて」
ダンテは大人しく目を閉じる。
あの一件以降、悪魔絡みの事件が増えた。依頼も増えたし、事務所の経営は波に乗っていると言える。兄との今世の別れの傷は、未だに癒えないままではあるが。
「随分派手なルージュだな…」
「その内馴染んで来るわよ」
「そうかな」
「髪、分け目でもつけてみたら?」
レディは冗談半分でダンテの髪を弄った。すると鏡の前に立て掛けられていた女性の写真と、鏡に映るダンテが重なって見え、思わず手を止める。
写真の女は、おそらくダンテの。
「……どうした?」
「何でもないわ。ホラ、できた」
「あんがとよ」
「何よいきなり」
「いや、あんたとのデートもなかなか悪くないと思ってね」
ダンテは肩を揺らしながら笑った。
「どうせ服代もメイクも全部ツケだろーけどな」
「……要らないわ。誕生日位は普通に祝ってやるわよ」
その一言にダンテが振り返る頃には、既に彼女は事務所の出口の前に立っていた。
「言っておくけど、一回きりよ」
「冷てぇな」
レディは僅かに口元を綻ばせた。
了