青空

ホワイトチャペルの続編



私は最低な父親だったと、今でも思う。娘を愛していたのは本当だが、日に日に妻の姿に近付いていく娘に心が痛んでいたのは疑いようもない事実である。
妻とは不仲であった。それが幾度も娘を不安にさせる要因になっていた。何も語り合えないまま先立たれ、ようやく娘はそこで私に対する不信を露わにした。それ以降の親子仲など、語るまでもない。



その後は男と良縁を結び、晴れやかな彼女の姿を見てようやく私は胸をなで下ろした。しかしその影でひっそりと佇む若い女を、私は見逃さなかった。

女は相手の男の妹にあたる人物だった。兄とはあまり会話を交わしている様子がなく、二人の後ろにいるだけだった。彼女は私によく似ていると、直感で思った。



「ごめんなさい。
私はあなたを妻として支えなくてはならないのに、何もお役に立てなくて」

結婚して数日経ち、彼女は静かにそう告げた。私が手を握ると、安堵したのか花が綻ぶように微笑む。私はその笑顔が好きだった。

「…それでも、あなたと一緒になれてとても幸せよ」

私は、この娘を妻に迎える事ができて幸運だったと思う。




妻はここ最近、体調が芳しくない。健気に振る舞っていても、寝込む日が次第に増えた。

先日、妻の兄がこの家を訪れた。妹は元気にしているか、と目に不安な色を宿しながら問うてきた。私はこの男はあまり好きではなかった為、妻の眠る寝室へは通すことはなかった。妻もきっと会いたがらないだろう。




数日後の晩、妻はとうとう喀血した。もう首すら動かせない有様だった。連れてきた医者にすら匙を投げられ、手立てのない私は最後の手を使った。

「これを飲めば、楽になれる。私もすぐにお前の後を追おう」
それでも妻は笑っていた。とても狂おしく、抱きしめたい程に美しかった。




妻の兄――あの目は娘と同じく、不信を表していた。

だが、もう妻は私のものだ。誰にも渡すつもりはない。誰にも邪魔はさせない。今から彼女は、永久に私のものになるのだから。




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