※シカスレナル→スレシカスレナルで中忍になった直後あたり。
Even Happy doesn't need an end.
ハッピーでもエンドはいらない
20
始まりは罰ゲームだった。
数時間前に強制参加させられた忍者人生ゲームでボロ負けした俺は、イノとサクラから罰ゲームとして『最初に出会った人物に告白をする』と言う世にも恐ろしい命令を受けた。
難を免れたキバとシノとチョウジは、如何にも哀れんだ表情をしながら自分の肩を叩いて励ましてくれている。だが、内心は自分達にこの罰ゲームが回って来なくて良かったと胸を撫で下ろしているに違い無い。三人の肩が分かり易く揺れている。
「めんどくせぇな…」
自分の家の前に立たされ、溜め息を吐く。
後ろ手にある門の影には、イノとサクラが睨む様に自分を凝視し、偵察している。
この不正は出来ず、逃げる事も出来ない状況下で打開策は微塵も見付からず唯過ぎ行く時間の中で、このまま人が通らなければ良いのにと嘆いた。
「シカマル!来たわ!行きなさい!」
イノは嬉々とした表情で弾む声を抑えながらも咆哮を飛ばし、こちらに目もくれずに通り過ぎようとしている暗部を指差している。
言われずとも暗部なのに、堂々とした足取りで道のど真ん中を闊歩している存在が目に入らない訳がない。今声を掛けなければ彼はどんどん先へと行ってしまうだろう。
「待ってくれ、聞いて欲しい事があるんだ」
自分なりの構想を立てた結果、遠回しな言い方でこの場を収める作戦に出た。
「俺と付き合ってくれねぇか」
聞いてくれなくても良い。要は『告白』さえすれば解決する。
後は彼がこのまま通り過ぎてしまえば、やたら興奮している彼女らが盛り下がってくれる筈だ。
「…いつから気付いていた」
意外にも暗部の足がピタリと止まってしまった。
これでは作戦失敗だ、よりにもよって悪い方向に。
後ろではイノとサクラがグッジョブ!と親指を立てている様子が想像できる。
「気付いてたってか…見れば分かるだろ」
思わずタメ口を聞いてしまったが、見た目で同じ齢くらいにしか見えなかったから良しとしてもらおう。
否、むしろ同じ齢だと確信している。
後ろで2つの人が倒れる物音と同時に、振り返った暗部が何を思ったのか突然、面を外した。本来ならばありえない行為に驚く所だが、自分としてはそれ以上に驚く凄まじい衝撃が凌駕している。
「偶然なのは分かっているが、俺を誘ったのならば其れなりの覚悟が必要だ」
ラピスラズリの様な瞳に、金色の髪、頬に残る特徴的な三本の髭。
間違う事なく、とても良く知る人物、彼その者だった。
「ナルト…お前…暗部だったのか」
喋り方も勿論、全てに違和感を感じ、柄にも無く呆気に取られてしまう。
金髪の暗部はクスクスと笑いながら、一本の巻物を取り出した。
「これが契約書だ、サインを乞う…ってばよ?」
ワザとおどけて見せる彼を笑う余裕が無い。
急展開過ぎる。
後ろで倒れている仲間達はいつ気絶させられた?何時から自分は謀られていた?そもそも彼の目的は最初から『自分』が狙いだったのか――――――。
「あの忍者人生ゲームに細工して擦り変えて措いた、シカマル…お前を暗部に引き入れる」
何と言うデキレースだろう。勝手が過ぎる彼に怒りすら沸かない。
「だから顔を晒したってところか…どうせ拒否権は無いんだろ?」
返事の変わりに巻物を突きつけられる。
めんどくせぇと言えない雰囲気に呑まれつつも、やたら細い巻物を開いた。
「親公認の暗部だ良かったな」
中身は簡潔な暗部になる概要だが、重要なのは最後の辞令を出した人物の名前。
「めんどくせぇ…完全に嵌められたな」
総隊長 奈良シカク
実の親の知らされていなかったもう1つの肩書きに最早、溜め息すら吐くことが出来なかった。
全てが塗り返された。
中忍だった自分が、気付くと参謀として迎えられ今ではSSランクの任務をこなしている。
そして何時も隣には、相棒となったナルトがいた。
もちろん相棒と言うよりも、教育係りとしての方が強い。
彼の教えは厳しく過酷を極めたが、それでも楽しいとまでは言えないが遣り甲斐を感じていた。
「半年でこの仕事振り…さすが総隊長の息子だと褒めてやろう」
正直な所、親の実力を卑下する訳では無いのだが、ナルトはシカクよりも数段上の能力を持っていると思う。
下忍としての彼はさて置き、暗部としての彼も力を抑えている様に感じられた。
「これはどうも副隊長殿」
ワザとらしく跪き、面を外して胸に当てる。
金髪が何時もの様に笑ってくれる事を期待しての行為だったのだが、今日の彼は少し様子がおかしかった。
「俺は卑怯だな」
彼の表情が愁いを含んだ様に曇る。
「シカマルを暗部にする様、総隊長のシカクを説得してお前を騙しこの世界に連れ込んだ」
間髪を入れずに聞き返せば金色は、ふぅと溜め息を吐いて沈黙を貫き出す。
「何の為に?」
別にちゃんとした答えが欲しい訳では無いが、彼が自分を必要とした理由を聞く義務があると思い、追い討ちを掛ける。
「…………………言ったら笑うだろ」
笑う様な内容なら言えば良いのに意外と面倒な性格なんだな、と黒髪の青年は首を左右に振りながら笑わないと誓った。
「シカマルともっと仲良くなりたかった…ただそれだけ」
金髪は顔を真っ赤にして逃げ出そうとしている。
どうした物か――――――まさかの答えに、自分の中で何かがプツリと切れた気がした。
次の瞬間、今までに無い速さで金髪の影を踏み、逃げられない様に拘束する。
殴られると思い金髪が反射的に眼を瞑ったのを見計らって、触れるだけの口付けをした。
「え?は?何で………」
「めんどくせぇ…もっと早くそれを言ってくれたら…」
いくら拒否権が無い状況でも、覆す方法はいくらでもあった。
でもそれをせずに暗部に入隊する事を自ら望んだ。
罰ゲームだってそう、彼にどこか似ていたから自然と声を掛けることが出来た。
「もっと早く言ってたら違ったのか?」
ナルトは本気で分からないと首を傾げる。
黒髪の少年は思う、
愛しい人が塗り替えた自分の人生で、今度は彼を自分色に染め上げてしまおうと。
「めんどくせえから教えてやらない」
透き通る金色の髪に、シカマルは優しく唇を落とした。
End...?
20.ハッピーでもエンドはいらない
詰め込み過ぎました(汗)
ナルトがシカマルを暗部に誘って実は無自覚両思いでした設定です。
参加させて頂いてありがとうございました!
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