筒井3


現パロ。






 窓際で紫煙を燻らせながら、島左近は道行く子供たちを見ていた。今日は祝日、親子で何処かへ遊びに行くのだろう。少し上に視線を移すと、空を泳ぐ空洞の魚が見えた。
 寝室の扉が開き、筒井順慶が顔を出した。それを見て左近は慌てて灰皿を手に取って火をもみ消そうとしたのだが、順慶は「構いませんよ」と微笑んだ。
「あまり私に気を使わないでください。ここは貴方の家でもあるんですから」
「家賃も払ってないのに、そういうわけにはいきませんよ」
 左近は煙草を灰皿に押し付けた。順慶が少し残念そうな顔をする。
 買い物に行くという順慶のため、左近は車の鍵を持ちだした。
 今日は花屋も定休日だった。

 食材を買い揃えてからも順慶は暫く左近を連れ回し、午前中に出たはずが帰りは二時過ぎになっていた。昼食も出た先で済ませ、夕飯の材料を冷蔵庫にしまう順慶を遠目に左近は窓際で煙草を吸っていた。
 その左近が灰皿に捨てるのを待って、順慶は左近の傍へ寄る。近付くと煙草の臭いが顕著になり、眉を顰める左近を順慶は笑顔で見上げた。
「左近はいつも煙草の臭いがします」
「……旦那は花の匂いがしますね」
 袖に擦り寄る順慶を、左近は緩く抱き寄せた。順慶の腕が伸び、左近の頬に触れる。見下ろす左近に順慶は顔を近付け、自分の方から口付けた。
 暖かな午後の太陽が窓から二人を照らしている。
 触れ合うだけの口付けを何度も繰り返し重ねた。そのまま腰に手を回そうとする左近だが、順慶にぴしゃりと叩かれてしまう。
「今は駄目です」
「はいはい、分かってますよ……」
 その割には落ち込んだ様子で、左近は順慶から手を離した。
「おやつにしましょうか」
 三時を指す時計を見ながら、順慶はそう言った。
「おやつ?」
 左近が怪訝そうな顔をする。普段、順慶が率先して間食をとることは少ない。
「ええ」
 順慶はやはり微笑んで、
「今日は五日ですから」
 と言った。テーブルには柏餅が二つ、並んでいた。合点がいった左近は、同時にあることを思い出す。
「ああ、そういえば今日は俺の……」
「誕生日ですよね、左近」
 順慶は椅子の下に置いていた、リボン付きの袋を左近に手渡した。
「以前に聞いていましたから」
「これは……わざわざ、ありがとうございます」
「いいえ。……さ、食べましょうか」
 朗らかな午後、餡の甘い匂いが、花屋の奥には漂っていた。




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