ガバッ、と勢いよく起き上がった。どこもかしこも汗びっちょりで気がつくと私は肩で息をしていた。嫌な夢を見た。見たけど、どんな夢だったかはもう忘れてしまった。隣で寝てるであろうリンクに手を伸ばすも私が掴んだのは空だった。あれ、リンクがいない。急いで起き上がって部屋中を探したけど見つからなかった。なんで?何でいないの。怖い夢を見たからなのか私は落ち着きがなくて冷静な判断を下すことが出来なくなっていた。

とりあえず外に出て周辺を探してみた。エポナはいた。リンクはそう遠くには行っていない。夜の森に足を踏み入れるなとリンクに強く言われていたけど、今はどうしてもリンクに会って、抱き締めてもらって、頭を撫でてもらいたかった。あとでいくらでも怒られるから今は、今は。







リンクは泉にいた。靴は脱ぎ揃えてあって、ぷかぷかと浮かんでいた。空を見ているみたい。パキ、と枝を踏んでしまって「あ、」と声を漏らしてしまった。リンクは勢いよく身体を起こして私の方へと視線を向けた。その目は驚きの色で染まっていて、それと同時にどうしてここに来たとでも言いたそうな、ほんの少し怒ったような顔をしていた。ズンズンとこっちに歩みを進めてくるリンクが何だか怖くて1歩後ずさった。そんなのもお構い無しにリンクはグッと私の手を思い切り引いてそのまま私を腕の中に閉じ込めた。


「何しに来たの。俺ここには来るなって言ったはずだよね」
「言われた、けど、…」
「…怖い夢見た?」


ああ、きみは何でも私のことを見抜いたしまう。コクンと頷けばよしよし、と背中をポンポンとさすられた。落ち着く。ぎゅっとリンクの胸に顔を埋める。落ち着くなあ、大好きだ。
しばらくして「落ち着いた?」と声をかけられて「ごめんね」というと「大丈夫」と返ってきた。
身体を離されてほんの少し寂しさを感じてるとふと、リンクの視線の先が気になった。


「リンク」
「…うん、戻ろっか」


何を見ていたのだろうか。聞いてみたら答えてくれるかな。そう思うけど私には聞く勇気なんて持ってない。リンクは私の手を取って家へとゆっくり歩き出した。何故だかこのときはいつもみたいにお喋りをしたりはしなかった。してはいけないような、気が。横目でチラリとリンクを見るとやっぱりどことなく空っぽな感じがしたんだ。心ここに在らず、という言葉が今のリンクには合ってるのだろうか。

家へ戻ってくれば寝室には行かずリビングの椅子に腰掛けて何か小難しい顔をしていた。私は今すぐにでも布団に入って寝たかったけど今のリンクを一人にしておくわけにはいかないと思ってホットミルクを作った。


「……寝ないの」
「寝たいよ」
「寝てていいよ。俺も後で行くから」
「リンクどうしたの。なんか…変だよ」


そう言うとじとりとこっちを睨んできた。心配してるのに、何だその目は。思わず私も睨み返してしまう。


「………寝ててよ、頼むから」
「なんで」
「寝てろって」
「だからなんで」
「…あーもう!」


勢いよく顔を上げたリンクの顔は色んな感情がぐちゃぐちゃ混ざったような顔をしていた。目が潤んでて、怒ってるのか悲しんでいるのか、よく分からない顔をしていた。そんな顔を見て豆鉄砲を食らった私はリンクが私を担ぎあげるまで抵抗することが出来なかった。ジタバタ暴れると思い切りお腹を抓られて動けなくなってしまう。こいつ、ほんとおかしい!ドサッと1度ベッドに乱暴に下ろされてギロリと睨みつけると私をまた抱き抱え直して布団の中へ潜り込んだ。突然のことにどう反応すればいいかわからない。リンクは私の項に顔を埋めてうーうーと唸っていた。硬い髪の毛が首に当たってほんの少しだけくすぐったい。


「俺さあ〜〜………、俺さあ、」
「何、どうしたの」
「このまんまでいいのかもうよくわかんないんだよ、どうしたらいい、name」
「何が?何で?」
「nameのことはさ、すっごい好きだし、大事にしたいんだよ。でもさあ、俺、こんな幸せでいいのかなって、ほんと、俺なんかがこんなに幸せでいいのかなあってさぁ〜〜…………」


鼻にかかったような声でグズグズと喋る。うりうりと項に額を擦り付けてくるからその度に当たる髪の毛がうっとおしくて、痒くて、くすぐったくて仕方ない。何もう、どうしたのリンクは。幸せでいいんだよ。だってリンクは、頑張ってきたんだから。一歩間違えれば、大変なことになっていた。重大な任務を、運命だからってだけで背負わされて。幸せになったらいけないわけがないし、幸せにならなくちゃいけない。幸せになる権利がある。それは誰だってそう。みっともないリンクを、1発引っぱたいてやろうと身じろぐとぎゅうっと力を込められてぐえ、と変な声を出してしまう。


「ちょっ、と!リンクってば」
「ごめん、今は俺の顔見ないでほしい。やだ、見ないで」
「みっともない顔してるのは分かってるんだから!いいからっちょっと!離してってば」
「やだって言ってるだろ。俺の言うこと聞けよ」
「った?!あっ、ねえ痛いよ!」


無理にリンクの方を振り向こうとしたら首筋を思い切り噛まれた。甘噛みなんて優しいものじゃないし絶対に歯形がついてる。気が立ってる。何だよリンクのやつ、凹んでるのか気が立ってんのか、どっちだよ!もう!首元からじんじん感じる痛みが憎たらしい。全部リンクのせいだ。


「うう〜〜〜、うー、うーーー…」
「…あのさあ、」
「やめて、うるさい、しゃべんな」
「じゃあ噛むのやめてよ。抱き締めんのもやめてよ」
「うーーーーーー…」


犬が玩具を噛むように、がじがじとリンクは私の首元を噛む。犬歯が鋭いから、ちょっと痛い。


「俺さあ、俺がさあ、またいなくなっても、探してくれる?nameは」
「うん、探すよ。リンクいなくちゃ私が怖い夢見たとき誰に慰めてもらえばいいの?」
「…それだけのため?」
「あーめんどくさいなあ! それだけなわけないじゃん、いちいち言わせないでよ」
「言ってくれないと無理。やだ。噛むよ」
「噛まないで。…リンクいないと、寂しいし、やだよ」
「…それで?」
「だから、そばにいてもらわなくちゃ困るし。リンクいなくちゃ私何も出来ないし、やっぱり…怖い夢見たとき慰めてくれる人がいないと、」


クスリと笑いながら言えば「またそれ!」と声を上げてうーうーと唸った。言わなくたって分かってるくせに。私がリンクを探しに行く理由なんて、リンクが心配だから。これが理由じゃダメなのかな。リンクが大切だから、リンクを幸せにするのは私だから。だから、そんなちっぽけで弱っちいリンクを私が守らなくちゃいけない。こんなこと言ったら俺は弱くないって言ってきそうだから言わないけど、これで理由なんて十分じゃないのかな。まあでも、私は好きな人を探しにいくことに理由なんて必要じゃないと思うけど。私の気持ち、ちゃんとリンクは分かってくれるのかなあ。


「…でも、nameが探しにきてくれるなら良かった。それだけでいいや」
「でもまた泉に行かれたら私もう入っていけないよ。あと遠いところに行かれても困る」
「ん、それは…」
「勝手にエポナ連れてっちゃうよ。いいの?」
「nameにならいいかな。エポナnameのこと大好きだし」
「いいのかーい、それで」
「うん、いい」


フフ、とリンクが笑ったような気がした。相変わらずリンクは私の首元を噛み続けているけどまあ、もうそれは、起きたときに怒ればいいかな。なんちゃって。何だか眠くなってきたし、もうこのまま寝てもいいだろうか。リンクはまだなにか喋ってるけどもう私の気持ちはきちんと伝わってくれているはず。瞼がどんどん重くなってきて意識を手放そうとしたときにふと思い出した。そういえば私怖い夢みたんだったけな。まあでもいいっか、リンクがそばにいるからきっと、私は怖い夢を見ることは無い。そっと意識を手放した。



所詮その程度のことさ

思い出せない夢だったってことは、きっとどうでも良くて大したことではなかったってこと。だってリンクがいなくなることと怖い夢を比べたら、それはリンクがいなくなることの方がずーっとずっと恐ろしくてたまらないことだから、ね。


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