∴ 誰も居ない世界でふいに微笑を少し交わすだけ
「おや、夏目殿…どうされた?」
「三篠!どうもこうも、見ればわかるだろ…」

夏目はなぜか木と木の間の空中に、十字架に貼り付けられた人みたいな格好で不自然に浮いていた。
よく見ると透明なくも糸のようなものが細かく張り巡らされた上にくっついている。
細くてすぐ破れそうにも見えるが、びくともせず動けなくて困っていた。

「どうしてこんな場所に?」
「多分お前のところのカエルだと思うんだけど、急に飛び出してきて踏んでしまいそうになったから避けたんだ。そしたらこうなった」
「ほぉ…それは悪いことをしましたな」

口調は穏やかなようだが、目は笑っているようにも見えた。

「こういうの、やめてもらえないか…はぁ」

ため息をついた理由は、実は三篠の配下のカエルを助けようとして厄介なことになるということがこれまで何度かあったからだ。

「何か用事があるなら普通に呼び出してくれないか」

妖に関わる者達はどうしてこうも変な趣向の持ち主が多いのか。
名取さんも紙人形を飛ばして呼び出したりするので多少慣れてきてはいたが、コイツは明らかにわざとやっている。

「いえ、特に用などはありませんが?ただの暇つぶしですよ」
「あぁ、そうか…」

夏目はどうもこの妖に気に入られているようで大事な名前を預けてくれているし、何か困りごとがあって頼れば快く引き受けてくれる。
もしかしたらこれも三篠なりのスキンシップなのかもしれない。
迷惑には変わりないのだけれど…。

「おぉそうだ、一応この蜘蛛の巣みたいなのを作っておびきよせ人間を喰らう妖がいるのですがこのままでよいのですか?」
「え、そうなのか。それはマズいな…悪いが助けてくれないか」

元はといえば三篠のせいでこんなことになったのだが、ここで妖に喰われるわけにはいかないので渋々お願いした。

「まぁ喰らうといっても大したことないので、このままでも大丈夫でしょう」
「は?いや、待て待て…」

「ほら、コイツらですよ」

視線の先を辿るとなめくじのような大きさとぬめりを持った赤い生き物がうねうねと糸をつたって素早く歩いていた。

「気持ち悪ッ!…ってこのままじゃ…うわっ」

何もしてくれようとしない三篠にもう一一度言おうとしている途中で、もうそのなめくじが手に到達し他にも何十匹が体の至るところから這い上ってきていた。
どぎつい赤い色が服の上からもぞもぞと動き回る感触は最悪以外のなにものでもなかった。

「これは面白いことになった…ふふっ夏目殿、服を脱がして差し上げよう」
「はぁ?何だって!?っちょ、こら、やめろっ…!」

今にも鼻歌を歌いそうなぐらいご機嫌な表情で三篠がまずシャツを脱がしにかかった。
器用にも右手が馬の手にも関わらず丁寧にボタンを脱がし、遂には肌が晒されてしまった。

「本気でやめっ…っぅ…くすぐった、い…ぁ…」

絶好の機会と判断したなめくじ達が一斉に露になった首筋、胸や腹などに殺到した。
ぬめりをおびた物体が素早く動き回る感触にムズムズとしてきて、変な声が口から出てしまった。

「冗談…じゃ、ないっ…ふぅ、こんな…の…っ!」

なんとか逃れようと体を動かすが、糸に捕らわれてほとんど体の自由がきかなくなっている。

「あぁ、いい声だ」
「ひ…っ」

耳のすぐ近くで三篠の低い声が聞こえ、生暖かい息がふりかかり恐怖にぞくぞくっと震えた。
もう、ただ面白そうだからという理由だけで助けないようには見えなかった。
全部仕組まれていたんだ。
それぐらい計算高い妖なんだ。

「その妖の出す分泌液は、人間にはちょっとした毒になるらしいですよ」

「そんな…っぅん!?うあ…あ、つい…?」

言い終わらないうちに突然上半身がビクンと震え、妖が這い回ってる部分が焼けるように熱く火照ってきた。
これが媚薬なのだと痛感した頃にはすでに遅かった。

「うあぁ…や、だ…これっ…はぁ…ひぃんっ…」

もう声を押し殺すこともできないくらい一気に興奮して、息が荒く目が潤み頭に靄がかかってるようにぼぉっとしてきた。
特に胸の突起の上を滑るなめくじが敏感な部分を刺激して、とろけてしまっていた。

「思った通りの逸材だ。何も知らない無垢さがまたそそられる」
「はっ…だめ…も、くるしっ…いぃ…ふわっ…」
「それはキモチイイと言うのですよ?夏目殿」

もう自分が何を口走っているのかも理解できないくらい、快楽にどろどろになっていた。
三篠がズボンを脱がしにかかり肌と布が擦れるのさえも心地よさを生んでいた。

「ここも随分と苦しそうになっていますよ?ふふふっ…」

遂に下着まで全部剥ぎ取られて顕になったそこは既に持ち上がり、赤く濡れていた。
笑いながらなめくじを何匹か掴み取り、そこに摺りつけた。

「はぁっ!だめ…これっ…もぉ、くっ…出る…ううぅっ!」

激しい刺激にあっという間にのぼりつめ、あっさりと吐き出してしまった。
地面に白い液体が飛び散り水溜りを作った。

「はぁ、はあぁ…あ…やだ、またぁあ…んんぅ…」

今出したばかりなのに、なめくじが這い回る感触にすぐにまた回復し腰を震わせた。

「随分と快楽に弱いのですね、ほらまたもうイキそうですよ」
「っあ…ふぅ、はん…っ…ああぁ…はぁあ…あああぁっ!」

理性はとうの昔に吹き飛んでいたので、我を忘れて自分で動ける限り体を振って果てた。
出ている最中にも妖の動きは留まることを知らず、連続して出し続けた。

「どうですか?妖に弱みを見せるとこういうことになるんですよ…これでもまだ…」
「はぁっ…お、れはぁ…っ…こんなことで…っぅん…あきらめ、ない…うぁあっ…!」

心は決まっていた。
例えどんなに険しい道でも、レイコさんのやり残したことを遂げようと。
こんなことぐらいで辞めたりはしないと。

「くくっ、流石私が見込んだだけはある。では、これからも楽しませてもらうとしましょうか…」
「あ…はぁ…ん、んんっ………」

意識がなくなる間際に聞こえた三篠の声は、少し優しさを含んでいるようだった。


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