∴ あたたかなその手は 私のすべて 狂わす
猿面の妖たちの罵声が飛び交う中、必死に友人帳の入った鞄をにぎりしめて絶対に離さなかった。

(おれがなにを言われてもいい……これだけは守らないと!)

体のいたるところを引っ張られ、殴られて擦り傷がいくつもできていたが全く気にしなかった。
だんだんと握力がなくなってきて今にも鞄を奪われてしまうと思ったその時――


「あぁ消えてやるさ。こいつも友人帳もあるべきところへ帰るのだ!」


一瞬何が起こったのかわからなくて狼狽した。
体が大きく傾いて先生の口で掴まれているんだと気がついたけれど、どうすることもできずしっかり鞄を抱えるしかなかった。
猿面たちとなにかを話していたようだったが、突然あたりに風が吹いたかと思うと二人とも空へ飛びあがっていた。

「え!?せ、先生ッ!」

景色がぐんぐんと変わっていくのに、いっこうに下に降りる様子がなかったので不安になって声を掛けたのだが返事は返ってこなかった。
変わりに全身が激しくぐらぐらと揺らされた。黙っていろということだろう。
しかたなく様子を見ていると、やっとどこか目星をつけたのか森の中に降りていった。

「うわっ、ちょ、ちょっと…!!」

地面に足が着く直前で急に支えがなくなったのでそのまま落下し、なんとか受身は取ったが勢いのままごろごろと体ごと転がってしまった。
擦ったところなんか構わず先生を怒鳴りつけようとして上半身を起こしかけたところで、お腹のうえに重みが加えられた。

「…ッ、重いだろ!なにをして……!」

わめき散らそうとしたところで眼前ぎりぎりに先生の大きな鼻がつきつけられて、思わず口をつぐんだ。
するとすぐに空気が凍りつき、変な雰囲気が漂っているのに感づいた。ぴりぴりと鋭く明らかに不穏な雰囲気だった。

「…ぁ…」

なにか言おうかどうしようか迷って、結局なにも言葉にする事が出来なかった。
目の前の先生の瞳がギラギラと血走っていて、息も非常に荒かったからだ。こんな状態の先生をおれは知っていた。
逃げ出そうと腰を引こうとしたが遅かった。

「な、なに興奮して…るんだ?」

完全に地面に押し倒されて両肩をしっかりと手で押さえられていたので、身動きが取れなかった。
いつの間にか先生の姿はいつもの大きさより小さく変化していて、おれの体に合わせたんだと思った。

「お前こそ、わかっているんだろうな」

やっと返ってきた答えは、冷徹なものだった。なにかを含ませるような言い方だったけれど、聞かなくても内容が予想できた。

「こんなに擦り傷を作るし、あんな小僧にはあっさりと捕まる。あげくにこの私を庇おうとするとはいい度胸だ」
「べ、別にいいじゃないか…」
「前に言っただろう?もっと自分を大事にしないと承知しないと」
「…っ」

確かに以前に先生とそんな約束をしていた。
つきあいはじめたばかりの頃だ。
忘れていたわけではないが、それで怒られるのは筋違いだと思った。

「あぁそうか。私に仕置きをされたかったのか?」
「なッ!?なにを言っているんだ、先生!」

ククッと低い笑いを洩らしながら不気味に笑ったので、ぞっと寒気がした。これまで一度もみたことのない表情だった。

「では、存分に犯してやろう」
「やめろっ、落ち着け!先生ッ!!」

何度も何度も呼びかけたが、まったく手ごたえは無くそのまま乱暴にズボンと下着を剥ぎ取られた。
圧倒的な力で抑えこまれて、抗おうにもおれでは無理だと悟った。

わかっている。
先生をこんなにさせてしまったのは、おれなのだ。
的場さんにも、猿面の妖たちにも一方的に言葉で責められたけれどおれはまともに言い返さなかったのだ。
おれのそういうところが先生は嫌いだとわかっていて、しなかった。

そして嘘を突き通せなかったおれは、傷ついた顔をした。
それが許せなかったのだ。

「や…っ…!」

必死に足を閉じようとするが両足は体でおさえこまれ、先生の長い舌が後ろの部分にふれた。
そのまま乱暴にべろべろとそこを往復され、目の前が一気にぶれるぐらいに体を震わした。
余計な声を出さなかっただけまだマシだった。

「せ…んせッ…っうぅ…!」

祈りをこめて名前を呼んだが、それを合図に舌が中にぬるりと侵入してきて体の内側に疼きがどんどん広がっていった。
何度も教え込まれた快楽が、じわじわと脳を麻痺させていった。

「…ぅ…ぁ…」

やがて最奥まで到達しそこの壁をぐりぐりと突く頃には、すっかりとできあがっていた。
息はすっかりあがっているし、腰は気持ちよさにぶるぶると震え瞳は涙で潤んでいた。
しばらくそのまま中を蹂躙されて満足したのか、ゆっくりと舌が引き抜かれた。

「はぁ…あ……ふ…っ…」

もうここまできたら流されるしかなかった。すっかり自身は勃ちあがっていて、先端からは汁があふれていたから。
深く息をつきながら、誘うように腰を揺らしたら不敵に微笑みながら先生がそこにあてがってきた。
ぐっと拳を握り締め目を瞑ったその時、ついに中に熱い塊が侵入してきた。

「あ…はあぁッ…ぁ…う、んぅ…っ」

なるべくすべてを受け入れようと全身の力を抜きながらため息をはいたのだが、向こうはそうは思っていないようだった。
思いっきり体重を掛けて無理矢理奥へ奥へと進み、激しい苦痛が生まれた。
けれどそれは始めだけですぐに体は順応し、鼻から甘い声が抜けていった。

「ん、んぅう…く、うぅ…ッ…」

狂暴な熱がやっと奥までしっかりと到達したが、そのことを認識する間もなく激しく中で暴れ始めた。
出したり抜いたりとストロークを何度か繰り返して滑りをよくし、今度は左右に腰を振ってそのまま叩きつけられた。
もう頭もそこも焼ききれそうなくらい、熱を発していた。

「ひ、ああぁ…ん、ん、はぁああ…っ…!!」

先に限界が訪れたのはおれのほうだった。腰から下をガクガクと麻痺させながら、盛大に欲望を迸らせた。
そのまま先生の綺麗な白い毛をべっとりと汚したが、本人はそんなことは構っていなかった。

「まだだ、まだ足りない…ッ!」
「い……ッ!?あ、あぁあ……はぁあ…っ…!」

休む暇も無いぐらいに突き上げられて、また自分の意志に反してそこが硬さを取り戻していた。

(こんなの、いやだ…ッ、せんせいっ、おねがいだ…いつもの先生に…もどって…?)

いつから流れていたのか、頬を熱い雫がこぼれ落ちていった。
けれど必死の願いも届かなかった。いつまでも、いつまでも激しい行為は繰り返され体も心もどろどろになった。


『あぁ消えてやるさ。こいつも友人帳もあるべきところへ帰るのだ!』


ふと、先生が猿面たちに向かって言った言葉が頭をよぎった。
あるべきところとはどこなのだろうか?
そこへ二人で消えられたら、幸せなのだろうか?

ずっと一緒にいられるのならそれもいいかもしれないと思い、口元を緩めて笑った。


最初から最後までずっと、右手は先生のやわらかであたたかい毛を掴んで離すことはなかった。

text top