∴ Little Little Princess4
「本当に…しないとダメか?…先生」
「まだそんなことを言っているのか?朦朧とした頭でよく言うな」

おれの背中に手を乗せながら感心した声で先生が言う。
軽く受け流しただけで、意見は全く聞き入れてもらえそうにないようだった。

(怖いんだおれは…こんなことをしてしまったら何かが変わってしまうんじゃないかって)

「おい夏目!!」
「…うわっ!」

急に体中に絡みついていた蔦が蠢いて体の体勢を変えられて、気がつくと先生の顔が目の前にあった。

「な…」

両足を大胆に拡げられて前を派手に晒されて、あまりに恥ずかしくて卒倒しそうだった。
こんな姿見られたくなんかないのに、顔は固定されて背ける事ができなかった。

「逃げるな夏目」
「う…っぅ」

先生は言いながらおれのお腹の上に両手を乗せて、互いの息遣いがかかるほどに顔を眼前まで近づけてきた。

「確かに今からお前にすることは私の勝手なわがままだ。だが逃げて欲しくない」
「そ…んなの…勝手すぎる」

あまりにも一方的すぎる言い分だったけれど、先生の目はとても真剣だった。
こんな鋭い瞳の先生をあまり見たことが無い。

「私はお前が好きなんだ…夏目」
「…え………?どういうことだ?」

一瞬意味がわからなくて聞き返してしまった。

「…せ、先生は欲求不満で手っ取り早くおれの体で済ましてしまおうと思ってるんじゃないのか?」
「誰がそんなことを言った?私がそんな酷い奴に見えるのかお前は!」
「そ…んなことないけど…ッ!それならそうと始めから言ってくれればいいのに…」
「言ったらもっと素直に受け入れたとでも言うのか?」
「…っ」

受け入れるとか受け入れないとかいう話ではなく、”誰でもいい”と言われるのと”お前がいい”では全然違うと思ったからどうせなら始めから言って欲しかった。

「夏目顔が赤くなってるぞ」
「な…ッ!」

「そうか、お前も私が好きだったのか」

「は…?…いや、ち、違う…誤解だ…おれは…っ!」
「そんなに必死になって照れなくてもいいぞ。それなら話は早い」
「ちょっと…待てって…!」

先生が好きだと一言も言っていないのに、完全に誤解されたままだった。
叫んでも全く聞き入れてもらえなくて、きっと喜びで話が全く耳に届いていない状態なのだろう。

「先生ッ!」

抵抗する事もできないまま、遂に先生のものがおれの震える尻に押し当てられた。
すでにぬるぬるになっている入り口を探るようにぐりぐりとゆるやかに動いていたが、やがてみつけると徐々に体重をかけてきた。

「う………あぁ…っ」

(そんな…先生のが中に…おれは…)

恐さや緊張からとても目を開いておくことができなくて、ぎゅっと瞑った。

「大丈夫だ」
「!」

目元に生暖かいざらついた感触がして、恐る恐る目を開けると先生が舌で涙を拭いながらとても優しい瞳でおれをまっすぐ見ていた。

「いつもお前は一人で我慢しようとする。こういう時ぐらいすがっていいんだ」
「あ…」

蔦に絡まれた腕が勝手に先生の背中に回されて、しっかりと両手で抱きつく格好になってしまった。

「や…ッ………ぅ…」

慌てて手を戻そうとしたところで体の中にこれまでとは違う硬さのあるものが侵入してきて、思わず手をぎゅっと握り締めてしまった。
蔦とは明らかに異なっていて根元まで芯のある硬さを伴った先生のは、ゆっくりと半分くらい侵入したところで一度全部を引き抜かれた。

「は…っはぁ………」
「息を吐けと言っているだろうが…まったくしょうがない奴だ。夏目、私に向かって”好き”と言え」
「………は?」

緊張と恐さから半分以上朦朧とした意識で必死に呼吸を整えていたが、先生の言葉でそれらがすべて吹き飛んだ。

「だから、それは勘違いだって…ッ第一この状況で人に何を強要してるんだ!」
「うるさい!耳元で騒ぐな阿呆が!!いいから私に従って”好き”と言え!それ以外の言葉を一切禁止する!!」
「横暴…だ…ッ!」

反論しようとして再び後ろにあたたかさを感じて、最後まで言うことはできなかった。

「早く言わないとめちゃくちゃに犯してやるぞ!」
「う………くぅ…ッ」

あまりにもキツい瞳で睨まれて、背中を冷や汗が伝っていくのが自分でもわかった。
さっきから先生は本気で言っているようで、冷静に考えてここで反対し続けるには限界だった。
こんな理不尽で無茶苦茶なこと従いたくなんてないのに、そうせざるを得なかった。

「…っ…す………きだ」
「声が小さいぞ」

「うっ………す、きだ…」
「もっとだ、もっと何度も繰り返せ」
「なっ…っぅ………好きだ…好き…だ…」
「そうだ、そのまま止めるなよ」

先生が言い終わらないうちに、再度体内に何か異物が侵入してくるごるごりとした感触が伝わってきた。

「う…くぅ…っ好きだ…あ……好き…だ…はぁ…」

必死にうわ言のように呟いていると、一度目の時よりはかなりすんなりとそれが侵入してきた。
そのうえさっきは感じなかった別の感情が浮かんできてしまっていることに驚きを隠せないでいた。

(う…そだ…体が、疼いてる…っ……気持ちいい…)

すっかり忘れていた媚薬の毒の効果が強くあらわれていた。
人の体で受け入れるには厳しいはずの行為に快楽を求め始めているなんて、考えたくもなかった。

「先生…好き…好き…すきだ…っあ…!」
「いいぞよくやったお前の奥まで入ったぞ。それにその言葉と顔が…最高に煽られるッ!」
「あ…ッ!」

獣姿のてのひらでポムポムと撫でられた後、すぐに先生の体が前後に揺れ始めた。
その途端に凄まじい熱さが後穴から全身に一気に駆け上がり、脳が焼ききれそうなほどに上りつめてしまった。

「あ…はあぁ………あっ…あぁ…」

下半身の熱がすっかりおさまってしまった後に、射精してしまったのだと気がつくほど強烈な衝撃だった。
それなのに先生の動きは素早くなっていく一方で、出し尽くしたはずの自身が回復してきてしまう。
あえぎ声が自然と口から漏れて、もう止めることなど出来ない。

「う…あぁ…は…っ…ああぁ…!」
「やっぱりお前の中はキツイな…ッ。そんなに締めると、吐き出してしまいそうになるだろ…」

少し苦しそうに顔を歪めながら、先生は不敵に微笑んでいた。心底嬉しそうだった。

(あぁ…先生もこんな風に笑うんだ…)

見たことの無い一面が垣間見えて、おれも嬉しくなった。

「…ッ…そんな顔をして、本当に知らないぞ!」
「は………ッ…!…あぁあ…はぁ…あッ…!」

完全に床に体を強く押し付けられ、体重を全部乗せながら先生が腰を大きく何度も振り動かし続けた。
あまりに強くおさえられすぎて爪が少し肌に食い込んでいるような気がしたけれど、それさえも快感として受け入れていた。

(好き…好き…好きだ…せんせい…)

口からははしたない声しか出せなくなっていたから、懸命に心の中で呪文のように唱え続けた。
きっと届くと、信じて。

「夏目…出すぞッ…!」

どのくらいそうしていたかはわからないけれど、気がついたら間近にあった先生の顔が切羽詰っていてあっと思った時には熱い迸りが奥底に放たれた。

「あ…あぁああ…っあはあぁ………!」

同時におれ自身も欲望を放出して、腰から下がぐっしょりと汚れてしまった。
とても中におさまりきらなかった先生の熱が、間から零れておれの熱と混ざり合って融けているのが微笑ましかった。
ゆっくりと引き抜いていくと、ごぽごぽと音を立てて残りの液が穴からふきだして水溜りがもっと拡がった。

「はぁ…は…」

流石にもうこれ以上はおれの体の方が続かないようで、重い体はぴくりとも動けなかった。
けれど繋がり合う前に抱いていた不安や緊張が全部どこかへ消え去り、心が満たされるような熱い感触が体の中に残った。

愛され、愛することがこんなにもすごいなんて…おれは知らなかった。

「私は…謝らないからな。お前とこうなったことに後悔はしていない」

口ではそう強気に言っている癖に、一度も目を逸らさなかった先生の瞳が悲しげに揺れていた。
もっといつものように堂々としていればいいのに、と思った。
慰めたいわけではないけれど、おれもなにか言いたくて口を開いて………

「先生…おれ…も…」

そこで唐突に意識が途切れた。



「―――――ッ!?」

次の瞬間には見慣れた自分の部屋に寝転がっていた。
どうも胸の辺りが重いと思ったら、普段の招き猫の姿の先生が乗っかって気持ち良さそうに寝息を立てていた。
とりあえず半身を起き上がらせ、それを座布団の上に移動させるときょろきょろと部屋の中を見回した。
夢の中に入る前に居たヒノエはすっかりいなくなっていた。
きっと自分の役目は終わったとばかりに帰ったのだろう。変な見返りを求められなければいいのだけれど。

「はぁ…」

とりあえず落ち着きたくて息をはいた。頭の中がまだ混乱している。
いくら夢とはいえ、あんなことがあったのだから無理はないと思う。

「…ッ!」

思い出すのも恥ずかしくて、どうにかなってしまいそうだった。
深く考えてもしょうがないので…そのことは置いておこう。
おれが元に戻ってきたということは、きっと夢の中で先生の望んだ願いを叶えて呪いを解いたということなのだろうか。

「先生の願いなんて叶えてなんか………あ」

そこでやっと本人が言っていたことを思い出した。


『お前に泣きながら謝ってもらって”先生大好き”と言われてみたいな』


「………」

そういえばつい口が滑って泣きながら謝ったし、強制的に先生に好きと言わされていたのを思い出した。

「そういうことなのか…?」

きっと始めから全部先生の思い通りに、願いを叶えるように巧みに振り回されていたのだ。
もう真相を知る術はないけれど。

「…ッ」

(一言くらい文句が言わないと気がすまないぞ。人をこんなにして…こんな気持ちにさせて…おれは先生のことがこんなに…)

そこで、はっと気がついた。

「どうしよう…おれ…せんせいのこと…本当に好きになった…かも…?」

好きという感情がどういうものなのかよくはわからなかったけれど、少なくとも今心の中を占めているのは先生のことばかりだった。
それは恋というものではないのだろうか?

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