銀に輝くは愛の証
『なあルフィ。ルフィは兄ちゃんが好きか?』
『うん!おれはえーすがだいすきだぞ!』
『じゃあ、大きくなったらケッコンしよう。ケッコンしたら、オレとルフィはずっと一緒にいられるんだって!』
『ほんとか!?うん!する!』
『じゃあこれはちかいの印だ。』
『ちかいのしるし?』
『おう、約束の印。おとなになったらむかえに行くから、それまで待ってろよ!』
『…おう!!』
―――………
「……ん…」
カモメの鳴く声と心地よい波の揺れの中、ルフィはうっすらと目を開けた。
(…今の…夢、か…?)
まだ覚醒しきれてない頭の中、眩しい日の光に眉を潜める。
「……久しぶりに見たな、この夢…」
むくりと上半身を起こすと、そこは紛れも無く自分の船。
隣にはよだれを垂らしながら寝ているチョッパーとウソップがいる。
そうだ、遊び疲れて昼寝をしたんだった。と頭の中で納得し、再び寝転んで何をするでもなくただぼーっと空を見つめた。
『大きくなったらケッコンしよう。』
もうずっと、何年も前。
結婚だとか男同士だとかよくわからなかった子供の頃、大好きな兄に言われたこの台詞に喜んで頷いた。
『ちかいの印だ。』
そう言ってエースはルフィの左手を取り、草花で作られた脆い指輪を薬指にはめた。
その頃はそれがよくわからなかったけど、これでずっとエースと一緒にいられるんだと思うとすごく大事なものに思えた。
(結局、その日の内に壊れたんだっけ)
号泣する自分にわたわたと困惑していたエースを思い出し、ルフィは少し笑った。
「うーー…、だあァ!!!」
「ふごっ、……ん、なんだ!?」
「あ、ウソップ。起こしちまったか、わりぃ。」
「…んだ、ルフィかよ…。ビビるじゃねぇか;」
ルフィが突然発した意味のわからない奇声に跳び起きたウソップ。そのままルフィと同じように寝転び、2人で空を見上げた。
「なぁ〜、ウソップ〜」
「ん〜?なんだ?」
「……大人って、いつだ?」
そう、これはエースが島を出てからルフィがずっと考えていた事。
大好きなエースがいなくなって、寂しくて、寂しくて、早く"大人"になりたいとずっと思っていた。"大人"になったらずっとエースと一緒にいられるのに、と。
「なんだ、そんなことか。大人ってのはな、このウソップ様のように誇り高き人のことを言うんだ!弱い者を守り、悪い者に立ち向かう!その名も!キャ〜プテ〜ン…」
「俺はまだ餓鬼なのかな〜…」
「…って聞けよオイ!!」
「んあ?」
ウソップは全く話を聞かないルフィに呆れ、拗ねたように再び目を閉じた。
ルフィはただ、ぼーっと流れる雲を見つめながら一人考えていた。
(つまみ食いしなくなったら、身長が伸びたら大人なのかな)
(それとも、海賊王になったらエースは大人って認めてくれんのかな)
だったら…
「まだまだ先、だな…」
ポツリと呟いたルフィの言葉は風のざわめきの中に消えていった。
「ナミさ〜ん、ロビンちゃ〜ん、おやつできましたよ〜♪ついでに野郎どもも早く気やがれ!」
「おやつ〜!!」
サンジの声にルフィは考えるのをやめ、甘い匂いが香るキッチンに向かって走っていった。
・・・・
「やっぱうめぇなっ」
もうすっかり夜もふけ、麦わらの一味も皆寝静まっていた。
そんな中、今日の不寝番であるルフィはサンジから夜食として受け取った山盛りのおにぎりを頬張っていた。
(そういえば、昔はエースもよくおにぎり作ってくれてたな)
ふと思い出したのは、幼いころの自分と兄の思い出。
思えばエースは昔から本当に優しくて弟思いの兄だった。
お腹がすいたと駄々をこねれば、しょうがないな、と言いながらもおにぎりをつくってくれた。
形はいびつだし、サンジのようにすごく美味しいというわけではなかったけれど、でも、エースの愛情がたっぷり入ったそのおにぎりはルフィの大好物であった。
喧嘩も、よくした。
小さなことで言い合いになって、お互い傷だらけになるまで殴り合った。
けど、喧嘩の後はすぐに仲直りして、笑いながら絆創膏の貼りあいをした。
強くて、優しくて、完璧な、自慢の兄ちゃん。
(……あんな夢、見たからだ)
ふとした時に思い出すエースの陰。
(エースのことばっか考えちまう)
ルフィはこの広い海を見つめ、少し泣きたくなった。
(…会いたい)
(会いたい、会いたい、会いたい)
「会いてぇ、な……」
「誰にだ?」
「…っ!!?」
突然の声に驚き、とっさに振り向いたルフィの視界に入ってきた人物は
「エ、エース!!!??」
「よう。久しぶりだな、ルフィ」
おにぎりをほお張りながら不適に笑う、今、まさに思い描いていたエースの姿であった。
「な…何で…!」
「ん?うわっ、これうめぇな〜!」
目を見開いたまま固まるルフィをよそに、エースは飄々と残りのおにぎりをすべて平らげてしまった。
「…あっ、それ俺のおにぎりじゃねぇか!」
「まぁまぁ、そうケチケチすんなよルフィ。いや〜、それにしても船でかくなったなぁ。新しい仲間も増えたんだってな?」
「お、おう…。」
そうかそうか、と目の前で嬉しそうに笑うエースの姿を、ルフィは未だ信じられないでいた。
(だって、さっき、会いたいって思ってたら、今目の前にいて、でもそんな簡単に会えるわけねぇし、…ってことは、これ…夢か?)
そうだ、これは夢だと自己完結して、試しに自分を殴ってみることにした。
「…いって〜〜!!」
「おいおい、何やってんだよ;」
殴ると、そのまま自分に伝わる衝撃。
じんじんと痛むその箇所と、驚いたような呆れたようなエースの顔を見て、
(あれ、夢じゃねぇの…?)
と改めて再確認された。
だとすると、更に分からない。
なぜここにエースが?
「あ、もしかして通り掛かったついでにか?」
「ん〜、まぁそんなとこ」
ニコ、と笑ってエースはルフィの隣に座った。
(あ、やべぇ…)
(なんかドキドキ、する)
なんてことない行動も、今日一日ずっとエースのことを考えていたルフィにはとても緊張を誘った。
(今日はエースデーだ)
なんてことをぼんやりと考えて、ふと隣のエースを見てみた。
(…あぁ、ホンモノ、だ)
くせのついた少し長めの黒い髪も、悪戯なそばかすも、派手なテンガロンハットも、全部、全部、ルフィが大好きなエースの姿だった。
そもそも、エースはあの約束を覚えているのだろうか。
大人になれば迎えに行くと確かに言ったのに、今も、少し前に会ったときも、全くそんなそぶりを見せなかった。
(俺がまだまだ子供ってことか、それとも…)
嫌な予感が胸をよぎったが、すぐにぶんぶんと顔を横にふった。
(約束、したじゃねぇか。エースは約束を破る奴じゃねぇ!)
うん、そうだそうだと再びバッとエースを見ると「何変な動きしてんだよ」とケラケラ笑っていた。
「そういえばさ、今回はいつまでいれるんだ?」
「ん?夜が明けたらすぐ行くさ。時間がねぇんだ」
「えっ、皆に会ってかねぇのか!?」
「あぁ、残念だけどな。今回はルフィに用があったんだ」
「え…俺?」
何だ?とぽかんとエースを見上げると
「…今は秘密。ちょっと待っとけ」
といつもの悪戯な笑顔でさらっと交わされた。
「なんだよ〜、ケチ!」
「ふははっ」
少し気になったものの、エースといられれば何でもいいや、と深く考えないことにした。
・・・
「で、そこで竹馬の上からじーさんが落ちて来てよぉ!」
「あっはは、なんだそれ!すげぇなぁ」
その後も、お互いの航海の話、立ち寄った街での出来事、昔の思い出など会話は途切れることなく続いた。
(でも…夜が明けたらエースは行っちゃうんだ…)
ふとそんなことを考えて、寂しさが襲ってきた。
(このままずっと、時間が止まればいいのに…)
なんてらしくもないこと考えて、(いや、ダメだ。俺もエースも海賊なんだ。このくらいなんともない。ずっと我慢してきたじゃねぇか)と自分に言い聞かせ、無理矢理笑顔を作ってエースを見た。
すると、エースはちらりと時間を確認して、よし、と決意したように立ち上がった。
「?どうし…」
「ルフィ。」
今までに見たことのないぐらい真剣なエースを見てルフィも心なしか緊張し、同じように立ち上がり視線を合わせた。
「あの時の約束、覚えてるか?」
「っ!」
約束、と言う言葉にルフィは目を見開いた。
(約束、…約束って…あの時のことだよな?)
今日一日考えていたことを突然言われて頭がついていかず、ぐるぐると渦巻く頭の中で取りあえず思いきり縦に首をふった。
すると、エースは安心したようにふわりと笑った。
「よかった…」
「エー…ス、」
「迎えに、来た」
そう言うとすっとルフィの左手を取り、昔と同じように指輪をはめた。
ただ、昔と違うのは…
「エース…これっ…!」
「今度のは壊れねぇぞ?」
昔のはすぐ壊れちまって参ったぜ、と笑いながら話すエースの言葉も今のルフィの耳には入ってこず、ただただ目の前のシルバーリングを見つめていた。
「お、俺……大人になったのか?」
まだ信じられない、といったようなルフィの表情にエースはふっと笑い、そっと抱きしめて耳元で囁いた。
「誕生日、おめでとう」
「…え、あ…俺今日、誕生…日?」
「あぁ。お前の18際の誕生日は、1番に祝いたかったんだ」
「…っ//!」
突然の出来事に驚きながらも、抱きしめられている温もりと耳元で聞こえるエースの甘い囁きにルフィは頬はみるみる赤く染まっていった。
その姿にエースはクスクスと笑い、抱きしめる手を緩めて真剣な表情で視線を絡めた。
「俺らは今、互いの信念の象徴を掲げてる。だからずっと一緒にいるのは厳しいかもしれない。」
「…あぁ」
「けど、コレが俺とルフィを繋げてる」
そう言ってエースは自分の左手の薬指を見せた。
そこには、ルフィに送ったものと同じものがはめられていた。
そのままエースはルフィの左手を取り、指輪にキスをした。
「ルフィは俺のもので、俺はルフィのものだ」
「エース…」
「愛してる。」
エースはにこりと微笑むと、そのまま繋いでいた手を引き、ゆっくりと唇を合わせた。
「…ん、ぅ…」
生暖かい感触に酔いながら、ルフィは幸せに包まれていた。
(夢、みたいだ…)
小さな頃からずっとずっと夢みていた出来事に、少し涙が出そうになった。
「エース…大好き、だ…っ」
そう言ってエースの首に強く手を回すルフィ。それを、優しい笑顔で抱き返すエース。
そんな二人を温かく見守る月の光に照らされて、シルバーリングがキラリと光った。
END
×××
心のcompass の千明様よりキリ番HITにて頂きました・∀・
・・・ほんっっっとうにスミマセンでした・・・!
推奨CPを全く無視したリクで・・・
そんなアホな私の為にこんな…素敵なエールを・・・・!!
千明様、本当にありがとうございます
(心のcompass へはLINKよりどうぞ!)