池田三郎次

火のないところに




火薬委員会に入ってすぐの頃だ。今は卒業してしまった当時六年生の先輩から聞いた話。


昔、火薬倉庫では火事があり一人の生徒がなくなった。

その生徒は用心深い生徒で平時から毒蛇に咬まれてもいいように火種を持っていたくらいだった。その日は風邪と熱にうかされながらも先輩に任された火薬倉庫の火薬の点検をしていて、その最中にうっかり火種を落としてしまった。それが火薬に引火、大爆発を起こし学園は騒然となったそうだ。

「用心深いと言われていたにはずいぶんとうっかり屋さんなかただったんですね」

「いや、先輩は火薬倉庫に行く前に火種や火器の類いは級友に預けていったそうだ」

「ならなぜ火事が起こったのですか?」

「それなんだがなあ」


その時火薬倉庫近くにいた生徒によると倉庫の裏手で煙が上がっているのが見えたそうだ。井戸で水を汲んで戻ると煙はなくなり黒い塊がそこに立っていた。見るからにパサパサしたそれが腕をあげると粉めいたものが宙に舞って地に落ちるまえに消えていく。そいつが倉庫の板に指を這わせた瞬間舐めるように火が火薬倉庫を包み込み、あっという間に大爆発を起こしたということだった。

「その生徒ってのが俺の兄さんなんだが、それから気が狂っちまったみたいで始終その黒いのが視界の端にいるって言うんだよ」

今では実家の部屋に引き込もっちまって一歩も出てこないんだ。いい忍になるって学園から太鼓判をおされるほどだったのに、残念だよ。

そう言って悲しげに笑う先輩の後ろから煙が一筋、空に引っ張られるように立ち上っていたのをついぞ指摘することはできなかった。卒業してしまった先輩がまだ元気でいらっしゃることを願うばかりである。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -