黒木庄左ヱ門

中身が違う




先日久しぶりに実家に帰った時のことだ。店の前に水を撒こうとしていた時、丁度お隣さんが顔をのぞかせていたので「こんにちは」と声をかけて会釈をする。少しふくよかなおばさんは頬をふっくらと持ち上げて人好きのする顔で笑って「庄ちゃん、久しぶりねえ」と返してくれた。それから少し世間話をした後、ご飯の支度があるからところころ足元を転げるようにまとわりつく柴の子犬に急かされるようにおばさんは家の中へと戻って行った。

それから少したったある日、暑い店先の気温を少しでも下げようと水桶を持って弟を背におぶろうとした時だった。いつもならそれほどぐずらないで背に負ぶわせてくれる弟がふにゃふにゃぐずった。おしめを見ても濡れていないしどうしたんだろうと思いながら、なんとか背におぶって店先に出る。

途端、視線。

ぐずっていただけだった弟がぎゃあぎゃあ泣きわめく。母さんと父さんは中から出てこない。おかしい。どこか、ここだけが周りから切り取られているみたいだった。弟の泣き声だけが妙に響く。気持ち悪い。強くなる視線。じろりじろり、ねっとりとしたそれを振り払うように自分の腕に爪を立てた。ぎりぎり食いこむ爪の痛みで飛びそうな意識を無理やり戻して視線の先をたどる。

お隣の家の勝手口からおばさんがこちらを覗いていた。血走ったような赤い目とこけた頬、変にゆがんだ口元から赤い汁が垂れている。くちゃくちゃ何かを食む音、ちらりと見えた歯の隙間にはびっしり茶色い毛が挟まっていた。にんまり笑っておばさんが弟を指さす。泣き声が一層ひどくなった。耳が痛い。

「こら!」

お隣さんの旦那さんの声だ。引っ張られるように僕の視界から消えていったおばさんをその日から二度と見ることはなかった。



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