鶴町伏木蔵
雑渡昆奈門
山本陣内


ヤオビクニ




今日もこっそり、雑渡さんと山本さんは忍術学園に遊びに来ていた。

別に僕も意識しているわけでもないのに、二人がやってくるのは必ず僕が一人のときばかりだ。それだけ間がいいのか、それとも僕が気がつかないのをこっそり影から見ていたときもあったのか。
ともかく、小松田さんの目を掻い潜って学園の中に侵入できるのはこの人たちぐらいだと思う。

かっこよくて優しくて、僕はこの人たちが大好きだ。嫌なことなんかひとっつもされたことがない。
タソガレドキ城は悪い城で、そこに仕える忍びはどんな汚い仕事でも冷酷にこなす、って本当なのかな?僕はいまいち実感がない。

雑渡さんの腕に抱き上げられて、なんだか今日は二人から潮の香りがした。
僕がもらったお菓子を食べるのに夢中になっている間、その頭の上で二人は難しい話をしている。
海沿いのある小さな漁村に、何かを買い付けに行ってその帰りらしい。忍頭と小頭が揃って直々になんて、よっぽど貴重なものなんだろうなあ、とぼんやり思った。
いつの間にか、難しい話は言い争いになっていた。こんなものは棄ててしまったほうがいいとか、忍務は全うしなければならないとか。
僕は二人のことが大好きだから、あんまり喧嘩してほしくないんだけどなあ。

もぐもぐ。

そのとき、二人が物凄い形相で一斉に僕を振り返る。僕は指についてた残りをぺろぺろ舐めているところだった。
山本さんの顔がみるみる蒼白になる。雑渡さんの表情はよくわからないけど、笑っていないのはわかった。

「…食べたのかい」

僕は、思わずニヤとする。
それを見た山本さんがますます顔を青くした。

「ぺっしなさい!ぺっ!」

珍しい、山本さんが慌てている。それが可笑しくて、僕はもっとにこにこしてしまう。

「…伏木蔵くん」

なあに、雑渡さん。



「君、知ってて食べたね?」



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