神崎左門

おとしもの




会計室をでてはや三刻、厠が逃げてなかなかたどり着けずにいた僕は、仕方なしにそこらの草むらで済まそうと手近な茂みに入った。

こんなことしたなんてバレたら田村三木エ門や潮江先輩に何を言われるかわからない。もしかしたら、もしかしなくても殴られるかも…だけど漏らすよりはマシだ。三年にもなって股間を濡らして帰るなど、恥ずかしすぎるではないか。

そそっと用を足して若干の罪悪感と自己嫌悪に唸りながらさあ、来た道を戻ろうと後ろを振り返ると茂みの向こうの道にぽっかり穴が開いていた。綾部先輩の蛸壺だろうか。近づかないが吉だとくるりと後ろに方向転換する。


一歩先に足を踏み出そうとして踏みとどまった。爪先のすぐ先に穴が口を開けていた。さっきまでなにもなかったのに。

いきなり現れた穴にはさすがに興味がわいて、縁に膝をついてぐっとなかを覗いてみる。真っ黒でなにも見えない。いや、なにか動いている。目を細め眇つしていると、暗闇がじわじわゆらゆら揺れているのがわかった。なんだろう、保健委員の誰かが落っこちているのか?

じぃっと見ていてざわざわと動いているものがなにか分かった。ぶよぶよした、白と赤の混ざった肉みたいなものが、びくりびくりと痙攣しているのだ。

背中に悪寒が走る。込み上げた吐き気をこらえようと前屈みになりながら口をおさえてえずく。

視界の端に青白い手をみとめたときにはふわり浮遊感に襲われていた。遠い空が丸く切り取られている世界のなか、耳に何かの息がかかった。



「堕としモノですヨ」



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