加藤団蔵
開けて
今日の委員会が、何徹目かもわからない。頭がぐわんぐわんしてゆらゆらと帳簿ののった机が歪む。隣では既に神崎左門先輩が鼻から魂を飛ばしている。向かいに座る田村先輩は目の下に隈を浮かべながら血走った目をかっと見開いたまま筆を動かし続けている。顔こわっ。
かたんっ。
筆が紙を滑る音に、硬質な音が被さった。少しだけ覚めた頭で音の方を見ればそれは会計室の入り口かららしい。障子に誰かの影がうつっている。
「みんな、お仕事ごくろうさま。おむすびこしらえてきたから、ここ、開けてちょうだい」
食堂のおばちゃんの声だ。
「あ、はいっいま」
「待て、団蔵」
腰をあげて四つん這いのまま障子に手を伸ばした瞬間、潮江先輩に止められてちょっとだけむっとして如何を問おうと振り向いて先輩の顔を見たら、言おうとしていた言葉が喉を滑り落ちていったのが分かった。
額から脂汗を流しながらぐっと眉間にシワを寄せてキツイ表情で障子の向こうを睨んでいる。一体どうしたというんだろう。先輩は乾いた唇を湿らせるように軽く舐めてからだんっと強く畳を叩いた。
「てめぇのいるところじゃねえ。さっさと帰れ!」
「なに言ってるんだい。ほら、冷めちまうからはやく開けておくれよ」
「入りたきゃ入ってこい。俺はわざわざわけのわからんもんを自分から招き入れるなんてことはしたくないんでな」
ぎりぎり、先輩の口が忌々しげに歪められるのと同時にさっきの物音。もう障子に影はなかった。
なんであれがおばちゃんじゃないと分かったのか潮江先輩に聞いたけれど、先輩は最後まで教えてくれなかった。なんでなのかなあ。
「…影がうつるわけないだろ、あの夜は曇り混じりの朔の日だったんだからな」
「潮江先輩、神崎がいません」
「どうせ厠にでも行ったんだろう。放っておけ」