夢前三治郎

祓詞




周りを田んぼに囲まれた見通しのいい畦道をてこてこ、急くわけでもなくゆったりとした足取りで三治郎は歩いていた。学園長から頼まれた御使いに出た帰り道、一緒だった三年ろ組の次屋三之助先輩はいきなり「作兵衛になんかあったような気がするから先に帰るわ」とか言って走っていってしまった。学園は反対方向です、先輩。

そんなわけで一人、日が中天に差し掛かり日差しの強いなかほてほて歩いているのだが如何せん暇である。なにか面白いことないかなあなんて考えていたときだった。

「ミギカヒダリカ」

鳥の鳴き声と田んぼで仲良く合唱する蛙の声に紛れるには異質なじゃじゃみ声に三治郎は足を止めた。

「ミギカヒダリカ」

不自然なくらい、いきなり静かになった鳥や蛙に、は組の勘でこれがいけないものであると判じた三治郎は困ったら言いなさい、と父から教えられていた言葉を口のなかで転がしながら帰路を急ぐ。


「たかあまはらにかみずまります すめむつかみろぎかみろみのみことをもちて おおやますみおおかみをおぎまつりて あおとのにきてみもとしらとのにきてみもとを ひとつらにおきたててくさぐさのそなえものおきたかなして かみほぎにみほぎたまえば はやきこしめしてあしきこととがたたりはあらじものをと はらいたまいきよめたもうよしを やおよろずのかみたちもろともにきこしめせともおす」




はじめ声はずっと三治郎の周りをぐるぐる回りながら問いかけを続けていたが、学園の門が見えた辺りでぱったりと聞こえなくなった。それがなんだったかはついぞわからないが学園の中に入ってから振り返った学園の外の門扉に頭の左半分を隠すようにしてニタニタ笑う女の顔が今も頭について離れない。



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