富松作兵衛

開かずの間




三年長屋の一番奥の角部屋。そこは用具委員会委員長、食満留三郎先輩が入学したときから、いやもっとずっと前から一度も開いたことがないと言う。食満先輩が三年生だったとき、一度だけその部屋を開けようとしたけれど、なにをやってもまったく開くことがなかったらしい。

「だからって俺に頼まれてもなあ」

件の部屋の前で一人ごちる。正直、食満先輩がやって出来なかったのだから俺がやったところで開く筈がないと思うのだけれど。だが、先輩の頼みを断るわけにもいかないし断ったりしたら何をされるかわからない。普段優しい人ほど怒ったときは怖いっていうしな!俺はまだ死にたくない!

照りつける日差しを背にしてざっと見たところ、障子が歪んでいるわけでも、カギがかかっているわけでもないようだ。火薬庫などの大事な場所ならいざ知らず、こんな長屋の一角にあるじめじめした部屋に鍵をつけるわけもないか。試しに障子に指をかけて横に力をいれれば、あっさりとなんの手応えもなく障子が横に滑った。

「なんだ、開くじゃないですかい」

暗くぽっかりと口を開けた部屋に一歩踏み出す。食満先輩が部屋が開いたらなかにある物を調べて欲しいと仰っていたからだ。長年開いていなかったからだろうかむわりとした湿り気のある空気が気持ち悪い。それにどことなく畳が柔らかい。湿気で腐っているのだろうか。暗闇のなか目を凝らすが足元までは確認できない。

「…なんでこんなに暗いんだ」

時間はまだ真っ昼間、それに障子を閉めた覚えもないし例え閉めたとしてもここまで暗くはないはずだ。部屋に入る前になぜ気づかなかったのだろう。そもそもはじめからおかしかったではないか。真っ昼間の部屋が暗闇に包まれるわけがない。

急いで振り返った作兵衛の目にうつったのは閉じた障子と上下から迫る歯列のような白い何かだった。




「藤内!作兵衛知らない?さっきから探してるんだけど見つからなくて」
「作兵衛ならさっき食満先輩に頼まれごとされたからって走っていったけど?」
「ははっそんな馬鹿な、だって六年は組の先輩方は昨日から校外実習に行っていてまだ誰も帰ってらっしゃらないもの」
「え、じゃあ作兵衛は誰に頼まれたの?」
「変装名人の鉢屋三郎先輩とかかなあ。聞きに行ってみよう」
「うん、あ、数馬そこ落とし穴が…あったよ」
「…早く言って」



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