七松小平太

穴の中




数年前から、同じような夢を見るようになった。

私は奥行きのある四角い部屋の中に立っていて、後ろには出入り口のような穴、そして目の前には大きな縦穴がある。
穴も部屋に合わせるように四角く、幅も深さも結構ある。土を切り崩したような、うっかりすると滑り落ちてしまいそうな穴だ。さらに、ちょうど私の視線斜め下にある穴の壁、そこにも出入り口のような穴が開いていた。私はその大きな縦穴の縁に立っていて、穴の中を覗き込んでいる。

穴の中には大抵何もないんだが、たまに物が置いてあることがある。
縄や、包丁、あと布団が一式ひいてあることもあった。

つい最近、とはいっても一年ぐらい前か。穴の中に物があると、二週間後ぐらいに知り合いの訃報が届いていたことに気がついた。
しかもどうやら、穴の中にあったものが死因に関係している。
縄の時は首吊り、包丁のときは夫婦喧嘩で夫が死んだって。布団は病気とか、老衰とか。
この間は知り合いの飼っていた犬が死んだと聞いて、「何か変なものでも食ったんだろう」って言ったら、「確かにげーげー吐いてた」ってきょとんとしていた。そう言ったのは穴の中にはでっかい蛙がいたのを思い出したからなんだけどな。それよりも私は、確かに何度か遊んだことはあったが犬のことでも夢に見るのか、ってちょっと面白かった。

一週間前、また夢を見た。
だけど、そのときはいつもと少し様子が違ったんだ。

私は、いつもは後ろにあったはずの出入り口らしき穴の前に立っていた。振り返ったらいつもの縦穴があったのかもしれないが、私はどうしてもその出入り口のような穴の中に進んでみたくなった。いつもは気にも留めないのに。
進んでいくと、そこはまた同じような部屋だった。見渡すと、いつもの部屋よりも少し手狭だ。ふと視線を上げると、そこには誰かが立っていた。どうやらここは部屋というより土塀に囲まれた穴のようだ。その塀の上に立っているのは、後姿だったから顔はわからないが、男だったと思う。そこで目が覚めた。

今思うと、私が進んだ部屋の先はあの縦穴で、視線の先に立っていた後姿の男も、もしかしたら私だったのかもしれない。

それにしても、素手って、結構時間がかかるんだな。



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