食満留三郎
善法時伊作
会いにいく
「今日は寒いね」
「そうだなあ」
寄り添うように二人で並んで、白い息を吐く。
今日はここ数日でも一等寒い。もしかしたら今夜辺り初雪が降るかもな、と留三郎が呟いた。
「突然いったりして、みんな驚くかな」
「いや、案外待ってるんじゃないか」
「そうかな、そうだといいな」
伊作は目を細めた。
潮の香りと冷たい海風に晒されて、心がふわふわと浮き足立っている。
「あ、留さん。着物の着方、間違ってるよ」
「え?…あー、ついいつもの癖で」
二人は笑った。
何も言わずに手早く直す伊作の指が肌に触れる。冷たかった。
「なあ、伊作」
「なんだい」
「手、繋ぐか」
「うん」
触れ合う手のひら、絡み合う指と指。
離すものかと、どちらからともなく強く握り締める。
「離さないでね」
「ああ」
一際大きい風が吹いて、崖の淵には二足の草鞋が残されていた。