竹谷八左エ門

壁に耳あり障子に目あり、それから?




今俺が一人部屋なのには理由がある。三年の終わりまでは同室者がいたんだ。


そいつはある日突然消えた。


いや、予兆はあったんだ。ただ俺が気づけなかった、信じてやれなかっただけ。今になって思い返してみれば、あいつは必死になって俺になにかを伝えようとしていたんだと思う。


「なあ八左ぁ、壁に耳あり障子に目ありって知ってるか」
「あ?あれだろ、どこで誰が聞いたり見たりしてるか分からないから注意しろよっていう」
「そっちじゃない。なんだ、お前知らないのか」


話によれば【壁に耳あり障子に目あり】には続きがあり、その続きを知ってしまったものは神隠しにあうというなんとも子供騙しのようなものだった。


「なんだ、そんなの信じてるのか」
「本当なんだぞ、本当に本当なんだぞ」
「じゃあ証拠でもあるのかよ」

「だって俺見たんだ。天井に鼻がついてた。姉ちゃんに聞いたのとおんなじだった」

「…なんだそれ。なんにも怖くないじゃん」
「でも、次は、床だから」
「床?」
「っこの話はもうおしまい!な、さっさと寝ようぜ八左」

そう言って蒲団をかぶってこちらに背を向けたあいつに倣って俺も腹にモヤモヤしたものを抱えながら目を閉じた。夜半、便所に行くのに部屋を出るとき蒲団からこちらに向かって飛び出ていたあいつの手をしまってやったのを覚えている。

便所から帰ってくるとあいつの姿はなくなっていた。蒲団も俺の分の一組しかなく、教員部屋に駆け込んであちこち先生方が探し回ってもあいつの行方はわからなかった。

ただひとつ言えるのは、俺が寝そべった真上の天井にあいつが見たであろう鼻があるということだけだ。壁に耳あり障子に目あり、天井に鼻あり残る顔の部位は、ひとつだけ。



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