初島孫次郎

木登り




僕が小さい頃住んでた村は森が近くて木がいっぱい生えていた。ある仲のいい男の子はそのなかでも一等高い木に登るのが好きだった。その木にはほかの木よりもたくさん枝がついてるから登りやすいんだって笑ってた。

ある夏の日、その子がいつものように僕の手をひいて木登りに誘ってくれた。一番上から見える景色はすっごくきれいなんだって。でも僕は木登りはあまり上手じゃないから足手まといになっちゃうから下で待ってるねって言って、彼がすいすい木を登っていくのを下から見てたんだ。一番てっぺんまで登ってこちらにすごい勢いで手を振るものだから僕まで登った気になっちゃって、興奮してぶんぶん手を振り返した。


その子を見たのはそれが最後だった。


手を振ったあと急に眠気に襲われた僕が起きると、僕の回りにたくさんの大人が立っていた。

「こんなところでなにをしているんだい」
「男の子と遊んでたの。あの子はどこ?この木に登ってたんだ」
「何を言ってるんだい。こんな枝の無い木、登れるわけ無いだろう」

言われて木を振り仰げば確かにあったたくさんの枝がなくなっていて、幹だけの木が立っていた。心配そうな顔をした両親につれられて、握られた手を握り返しながら何気なく後ろを振り向く。

そこには夕焼けに照らされて地面に暗い影を落とした、幹からたくさんの人間の手を生やした大きな木があった。まばらに動きひしめくあの手の持ち主のなかに彼が含まれているかまではわからないけどね。



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