鵺式。
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※たまには甘くてもいいかなって





「仙蔵」

どうして、こんなことになったのだろう。
確かことの始まりは、そう。長屋前の廊下を歩いていると、足元にバレーボールが転がってきた。思わず拾った。そうだ、まずそれがいけなかった。

「おい、なあ」

どうやら鍛錬馬鹿どもが脇の庭でバレーをしていたらしい。だからどうやって三人でやるんだと思うのだが、そんなことを言ったが最期、じゃあ一緒にやろう!と引きずり込まれるので絶対に言わない。
そちらにボールを放り投げると、あれはもはや梅干見て涎というか、何故か文次郎がレシーブした。長次がトスした。小平太がアタックした。

「仙ー」

そしてさも当然のことであるかのように、そこを通りかかった伊作に直撃した。まあそれはいつものことなのだが、そのときばかりは神懸かっていた。伊作はちょうど奇跡的に足元の蛸壺を避けて、今日はいいことありそーと満足気に歩いていたところだったのだ。
もちろん、落ちた。しかも隣を並んで歩いていた留三郎を巻き込んで、それは盛大に落ちた。

「聞いてんのかー」

鍛錬馬鹿どもに引っ張りあげられ這々の体で蛸壺から這い出してきたは組、主に留三郎が、憤慨し凄まじい勢いで怒鳴りだした。今度は転んで受身を取るというか、それを文次郎がまともに怒鳴り返し喧嘩を始めた。
まあ馬鹿二人は置いといて、伊作が困惑しているようだったので話を聞くと、伊作は留三郎に手伝ってもらい保健室の備品を運んでいたところだったらしい。なるほど、蛸壺を覗き込むとそれは悲惨なことになっていた。

「しかとざまあ」
「留三郎殺す」
「もーやめなよ二人ともー」

まだ使えそうな備品もあったのだが、中でも困ったのは消毒薬だった。中身がぶちまけられ蛸壺の中はぷん、と独特の臭いが鼻につく。しかも他に予備がないとかで、いやー災難だったね、では済ませられない事態だった。
長次の提案で、鍛錬馬鹿ども三人が自腹で町に買いに出る事になった。走れば夕方までには戻ってこれそうな時間だったのは、今の状況を鑑みれば明らかに不幸だったと言わざるをえない。

「ははは仲良しだな!」
「………、」

気を利かせたつもりなのか、鍛錬馬鹿どもは酒屋で消毒薬を求める傍ら、それとは別に一升瓶を一人一本ずつ抱えて帰ってきた。侘びに今夜は皆で飲もう、と。
それまでぶつくさ煩かった留三郎は途端に機嫌がよくなった。現金なやつだ。明日はたまの休みだし、辞退して白けさせるのもなんなので、仕方なく参加することにした。
本当に、浅はかだったと思う。

「仙蔵!」

文次郎に汗ばんだ両手で頭をつかまれて、ぐりん、と振り向かされた。痛い。近い。酒臭い。
完全に目が据わっている。嫌な予感がした。

「仙蔵好きだ!」
「うるさい黙れ!」
「好きだ好きだ好きだ好きだー――――!!!!」
「やめろ黙れえええええ!!!!」

多少皆より酒に強かったばかりに、まさかこんな辱めに会おうとは誰が想像しただろうか。
もう、本当に、どうしてさっさと潰れてしまえなかったのか。参加しなければそれが一番よかった。今度からは一本まるまるかっぱらって一人で飲もう。いや待て、そもそも今度とかないから。社会通念上、我々は学生であってまだ酒を飲んでいい立場ではない。そうだ、卒業するまでこれを戒めに酒を禁じると誓おう。

「もう仙蔵ったら照れちゃってー」
「照れてない!!!!」
「いいなー仙ちゃん私にもデレてくれ!」
「デレない!!!!」
「大好きだ!!」
「もう死ね!むしろ死にたい!!」

だからせめて今晩は、明日には記憶が綺麗さっぱり飛んでいますようにと祈りながら、飲み収めとすることにした。



翌日、多分昼近くになるような時間だと思う。
寝返りを打った文次郎の肘がまともに脇腹に入って、目が覚めた。
はて、ろ組の長屋で飲んでいたはずだったのだが、いつの間に自室に戻ったのだろう。記憶がない。

「…うぅ、気持ち悪い、頭痛い、仙、水くれ」

腰に絡み付いてくる文次郎が心底鬱陶しい。
ところで、何も着ていないのは何故だ。そして同じように全裸の汚い文次郎がどうして同じ布団に寝ている。あと、股関節が痛い。
どうしてこうなった。





酒精に頼った恋なんて






11.05.15
ついでに文次渾身の叫びは学園中に響き渡っているのだった

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