鵺式。
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・泣いちゃう仙蔵
 文次郎独白 仙蔵独白 


木の実のように丸く、目尻にゆくにつれ吊り、ゆらゆらと揺れて、まるで船が波に浮いているようだった。
瞬くたびに零れた雫が頬を、顎を伝い、ぱたりと落ちて、きらきら光る。その姿はまるで一枚の絵のように鮮やかで、何度見ても心臓を鷲掴みにされるような思いがした。一粒、一粒、拾い集めて、大事にしまっておければいいのにと、仙蔵が泣くのを初めて見たときは思ったものだ。
部屋の隅に座り込んで、しかし背は丸めず俯かず、ただ真っ直ぐに何か睨み付けるように壁を見て、声もなく泣いている。その佇まいは、まるで静かな海だった。傍で見ていると潮騒の中に一人佇むようで、不思議と包まれるような穏やかな気持ちがする。
一方で、もっと声を上げて、暴れる子供のように当たり散らして素直に泣けばいいのにと、もどかしくも思う。そうしたら問答無用でその痩身を抱き竦めて、大丈夫だと背を叩いて宥め、涙を拭う胸を貸してやれるのに、と。
しかし泣いている仙蔵の背中は、何よりも気高く、孤独だった。



少し、考え事に耽っていた。ぼんやりと視線を彷徨わせて、壁の木目を茫洋と眺めている。だからといって何か考えがまとまるわけでもなく、気が付くといつ間に日が暮れていて、ああ、時間を無駄にしたな、と思う。しかしそれでも、身体の芯から凍り付いてしまったようにそこから動くことができない。
突然背後で戸が開いて一瞬身体を強張らせるけれど、それが文次郎だと気が付いてすぐに気が抜ける。しかし次いで、普段ならどんなに音を殺していても気が付くのに、と思って、そこまで自身が腑抜けているのかと酷く情けなかった。
文次郎は、その場で一瞬立ち止まったけれど、すぐに動き出して近くまでやってきた。何かと思えば、まるでなんの心遣いもなく、どかり、と仙蔵の隣に腰を下ろす。驚いて思わず仰ぎ見ると、すぐ近くにあるはずの顔が、ぼんやりと霞んでいた。
その時初めて、自身が泣いていたのに気が付く。気が付いて、余計に涙が溢れて、止らなくなった。
お前なんか、嫌いだ。思わず、嘯く。
歪んだ視界で、見えもしないのに何故か文次郎は笑っているような気がして、なんとなく腹が立ったので脇腹に肘鉄をくれてやった。




10.12.21
拍手お礼<10.09.03〜10.12.21>
全部の仙蔵が好きな文次と、文次郎にだけは甘えられる仙
うわ、好きとか、かゆいわ、バカップルめ←


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