鵺式。
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※馴れ初め?




俺にとっての立花仙蔵とは、傍若無人、そのものである。

とはいっても、奴は万人にそういう態度を取っているわけではない。
あの秀麗な顔は何者にも悪い印象を与えない。それが一度微笑めば誰しもが振り返り頬を染めるだろう。鼻にかけた嫌味な態度を取るのは見合った実力があればこそだ。相手によっては慇懃無礼なところもあるが根は実直で、目上を敬い、目下を気遣う。一見孤高である奴も、付き合ってみればこれほど気持ちのいい男もない。俺とて、最初はそう思っていた。

何時からだろうか。当の男の振る舞いが、自分に対してだけ礼も遠慮もない非道とも取れる態度になっていったのは。
訳もなく手が出る、いちいち突っかかる、俺の物を私物化する、周囲が呆気にとられるほど口汚く罵る、あることないこと後輩に吹き込む。そうしてそれを見た周りに、お前は一体何をやったんだ、と言われるのは俺だ。
憚らず、譲らず、思うままに振る舞い、俺を困惑させることだけに喜悦を感じるらしい。その狐のような笑みの輝きようといったら、ない。悪趣味と言わずなんと言おう。
そういう俺も俺で、そんな仙蔵の態度にはすっかり馴染んでしまった。
最近は専ら、むきになるよりも相手にせず適度に受け流すことで、奴がつまらなそうな顔でそっぽを向くのに内心密かに笑んでいる。俺も随分陰湿だった。

今とて、俺に適当にあしらわれて不機嫌そうに眉を寄せた仙蔵は、仏頂面に頬杖をつき退屈そうに本を読んでいる。
その背中に思い立った俺は、ついに問うた。

「おい、仙蔵」
「なんだ」
「お前、俺が好きなのか」

極めて無表情、無感情を努めたつもりだったが、成功しただろうか。
仙蔵は手元の本から顔をあげ、ようやっとこちらを見る。その口元が俺をからかう時のように笑んでいたのに、ああ、また余計に喜ばせてしまった、と瞬きの間に思った。

「知らなかったか?」

その口から転がり出たのが嘲りでも罵りでもなかったのは予想外で、少し面食らってしまった。
猫のような目を細めて、小首を傾げる。口元が優しげに微笑んで、しかし緩やかな弧を描く涼しげな眉が何処となく厭らしい。自身が見目に麗しいと理解している。その価値と用法を心得た、狡猾な笑みだ。
それをまんまと愛らしいと思ってしまう自分の頬を、目を覚ましに張り倒してやりたかった。

「…初耳だな」
「よく言う」

とぼける俺を仙蔵は鼻で笑って、読む気の失せたらしい手元の本を投げやりに放り出した。

「お前も、随分物好きな男だ」

仙蔵は拗ねた子供のように口を尖らせて息をついた。いや、あるいは俺に呆れているだけなのかもしれない。
俺は、そんな仙蔵の態度が言うほど不快ではないのだった。

「お互い様じゃないのか」

そう笑った俺をじろりと一瞥に伏して、仙蔵はそっぽを向く。
そっと近づいて背中に流れる黒髪に触れると、艶やかな髪は逃げるように指先を滑った。当の仙蔵は気にする素振りも見せず、くあ、と大きく欠伸を零すだけだ。

仙蔵は、気まぐれな猫のようだと思う。
人の近くに居る割には一定の距離以上を踏み込ませない。だが気を許した相手にだけは散々じゃれつき甘えて、懐に入るのを厭わない。
そんな風だから俺は、戯れの甘噛みを咎めずそれどころか助長させるように散々甘やかして、時々意地悪く構い倒してやりたくなる。
今がどちらかと言えば、釣れない猫が鬱陶しがるほど執拗に撫でてやりたい気分だった。





猫も杓子も敵うまい






10.10.20
なし崩しw好きな子ほどなんとやら^^

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