月下美人は今宵咲く | ナノ

鵺式。
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※女装仙蔵 当て馬という名のモブ




空から零れそうな大きな満月の晩に、彼女は現れる。
私と彼女が初めて出会ったのも無論、まんまる大きな満月の照らす、静かな夜であった。
私はある星が降ってきそうな夜、誘われるようにして丘に立つ。
一人だと思っていたのに、いつの間にか気配も無く女が隣に立っていて、私は心底驚いたものだ。

「そなたは怪か」
「怪?…ふふ、そう想われるのならそうなのでしょう」

そう答えて妖艶に微笑む彼女に、私は一瞬で参ってしまった。
それはもう、彼女が何者であるかなぞどうでもよくなってしまうくらいには。

彼女は私のどんな話にも、楽しそうに目を細めうんうんと相槌を打ってくれる。
時折不可思議な質問や突飛な質問をして、私を驚かせたり困らせたりもして楽しんでいるようでもあった。彼女が笑うのが嬉しくて、彼女の笑顔のためにどんな些細な質問にも応えてやりたくて、私は私の答え得る質問にはなんでも応えた。

「今宵で、お会いできるのは最後になりましょう」
「何故?」
「咲かねばならぬのです」

彼女は微笑んだ。そして、追い縋ろうと伸ばした私の手をするりとかわして、満月が雲に隠れていくように、深い森の中に彼女は消えてしまった。

本当は、わかっていた。彼女は怪の類などではないこと。
彼女は血の通った人間で、しかも他人の女であったのだ。彼女の表情の節々から、嗚呼、他に想う男が居るのだとはなんとなく感づいていた。けれど彼女はここへやってきたし、私の話し相手になってくれた。私にとってはそれだけだ。満月の晩にだけ見ることのできる夢。

そう、夢であった。

きっと彼女は他所へ嫁ぐ。
私が彼女に出会ったとき、彼女を怪だと勘違いしたのを面白い興とでも思ったのだろう。彼女は自分のことを語るとき、一種の謎掛けのような言い回しをした。
自分が怪であるように匂わせたり、満月の夜に月が満ちるのを待っていると言ったり、去り際にはまた欠けた満月の夜にと約束してくれたり、満ちた今宵は咲かねばならぬと言ったり。
彼女が怪であったなら、きっと花だ。年に一度、満月の夜にしか咲かぬ、月下美人。咲くのを見ることは叶わないが、儚い一夜には酷く似合いの花。

月が彼女を攫うというなら、私はもうこの丘に月を求めには来ないだろう。





月下美人は今宵咲く






『あの男、お前と違って侘び寂びや情緒というのをわかっていた。お前と話すよりもずっと楽しかったよ』
『悪かったな、侘び寂びも情緒もわからん唐変木で』
『ふふ、気分はよかったが…しかし退屈だったよ。私は退屈だと死んでしまうから』




10.01.26
情報収集かなんかの忍務
文仙いない^q^

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