鵺式。
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二つ三つずつくらい収納
・形無し仙蔵
・形無し文次郎



※にょた仙 学パロ 下ネタ?


「仙蔵」

顔を上げると、眉間に深く皺を寄せた文次郎がこちらを覗きこんでいた。
寝ていたところを起こされるなど、いつもならば文句の一つや二つは三つや四つ言ってやるところだが、今はそんな気分ではなかった。
不機嫌を隠そうともせず仙蔵は鬱陶しげに眉を顰める。知らない振りをしてまた机に突っ伏した仙蔵の頭を、文次郎は静かに撫でた。あんまり珍しい、というより気味が悪かったので、仙蔵は思わず顔を上げ訝しげに文次郎を見る。

「なんだ、気色悪い」

仙蔵の憎まれ口にも何の反応を返さない文次郎が、いよいよもって気持ちが悪かった。

「保健室、行くぞ」

突然、文次郎は意を決したように言って、仙蔵の二の腕を掴み強引に立ち上がらせた。
抵抗する間もなく引っ張り上げられて、別に気色悪いのはお前で私じゃない、と腕を振り払ってやるつもりが途端襲ってきた眩暈にぐ、と息を詰める。ふらりと揺れる仙蔵の身体を腕一本でたやすく支えられて、何故だか、じわり、と涙で視界が歪んだ。俯くと、一つ、二つと雫が落ちた。
それを周囲の目から隠すように、文次郎は仙蔵の頭を胸に抱き込んだ。されるがまま顔を埋めて、仙蔵はすん、と鼻を鳴らす。

「…いやだ」
「仙蔵、」
「うちにかえる…」
「今帰っても誰もいねぇだろうが。放課後送ってやるから」

それまで寝てろ、そう言いながら文次郎は仙蔵の頭を宥めるように梳いた。
情けなく震える手を伸ばして縋るようにシャツを掴むと、文次郎は心得たように仙蔵を抱き上げる。その肩口に顔を埋めると文次郎の匂いがして、胸がじん、と痛くなった。途端、まるで決壊したように涙が止らなくなって、ぼろぼろと零れる涙を誤魔化すようにますます文次郎に縋りつく。気を抜くと声まで上げてしまいそうで、必死に息を潜め殺した。
文次郎が、仙蔵にだけわかるように小さく身体を揺らした。

「仙蔵、どうかした?」

いつの間にやら、伊作が傍にやってきていた。気がつけばクラス中の視線が何事か、とこちらを見ている。

「熱がある。保健室連れて行くから、あと頼む」
「わかった。先生に伝えておくよ。…仙蔵、大丈夫だからね」

伊作の優しい声に思わず、ふ、と仙蔵の息が震えた。ああ、泣いているのがわかってしまったかも、と思うが早いか、文次郎は少し大きな咳払いを一つ、仙蔵を軽く抱きなおし足早に教室を出た。
その背中を見送って、伊作は苦笑を一つ零す。

「…過保護だなあ」

そう小さく呟くと、尋常な様子でなかった二人をなんだなんだと噂するクラスメート達を適当に散らした。



保健医は外出中らしく、保健室は閑散としていた。
設置されたパイプベッドの一つに身体を横たえて、仙蔵はすぐに布団の中に頭まで潜り込んだ。
すっかり冷静になって、自らの演じた醜態に顔から火が出るようだった。文字通り熱に浮かされて衆目ある場所で泣くわ、縋るわ。せっかく教室の隅でやり過ごそうと机に突っ伏し身体を小さくしていたのに、よりにもよって文次郎にそれを看破されてしまったばかりに気が緩んだ。
考えてみれば確かに、仙蔵の不調を見極められる者があるとすればそれはまず文次郎だろうし、仙蔵が素直に縋ってしまうのも文次郎ぐらいだ。この結果は完全に仙蔵が判断を誤ったもので、思考まで弱っていたのだと思うといよいよ情けなくなってくる。これならいっそ最初から保健室で休んでいるのであった、と思っても後の祭りだ。
なるようになれ、と開き直って布団から顔を出すと、相変わらず眉間に皺を寄せたままの文次郎と目が合った。情けなく下がりそうになる眉を無理矢理誤魔化している、不安で仕方ない、そんな顔だ。他人から見ればただ無愛想な仏頂面だというが、これほど感情のわかりやすい奴もいないだろうに、と仙蔵は思う。
よくも泣かせてくれた、と八つ当たってやるつもりで顔を出したのだけれど、これもこれほど情けない顔をするぐらいには切羽詰っていたのかと思うと、すっかり毒気を抜けれてしまった。どっと疲れが押し寄せてくる。文句を言ってやる気も失せて、仙蔵はじとり、と文次郎を睨み返した。

「…帰る」
「だから、俺が終わるまで待ってろ。ほら、薬」
「いらない」

いつの間に薬棚を漁ったのか、差し出された錠剤と水の入ったカップを突っぱねて、仙蔵はそっぽを向いた。
文次郎の言う通り、両親とも共働きの仙蔵の家に昼間人はいない。目の届かないところで一人にするのが心配なのだろう。なんだかむず痒いが、あながち嫌とも思わない。
ほら、と布団の上から小さく揺すられて、仙蔵は仕方ない、と身体を起こすと、薬とカップを受け取った。
錠剤の入った銀のアルミ包装を剥がそうとして、ふと「鎮痛」の記載に気がついて首を傾げる。その横に「解熱」ともあるけれど、これは一般的な解熱剤とは違うようだ。

「頭と腹、痛いんだろう」

ぶす、と言った文次郎に、仙蔵は目を見開いて驚いた。
確かに、頭の中はまるで鐘がなっているみたいにがんがんするし、足腰が立たなくなるぐらい腹も重い。触れることで熱は伝わっても、しかし痛みまで伝わるはずがない。何故、と問うような仙蔵の視線に、文次郎はばつが悪そうに目を泳がせた。

「…血の臭いがすんだよ、お前」

ぼそりと呟いて、真っ赤になった顔を背ける文次郎に、仙蔵は思わず噴出した。

「…変態」
「うるせえ。…いいから飲め、少しは楽になるだろ」
「く、くくく…」
「笑うな!」

噛み殺し切れずに零れた笑いに、湯だった蛸のような顔をした文次郎が怒鳴る。引き攣れた腹が、ますますずん、と痛かった。

「お互い、形無しだな」

臍を曲げてしまった文次郎は、顔を背けたままもう何も言わなかった。



10.07.09
拍手お礼<10.06.01〜10.07.09>
せっかくなので繋げてみました
三行あいたところから上が形無し仙蔵、下が形無し文次郎です


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