鵺式。
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二つ三つずつくらい収納
・ヤンデレ文仙
・学パロ六年生
・会計委員



※ヤンデレ文仙


今夜は、どこか気持ちがそわそわと漂って落ち着かない。
耳障りな風のせいか、それとも生温い空気のせいか、文次郎の内心はささくれ立っていた。
何者かに急かされ、追い立てられ、けれど逃げ場もない。心は焦るばかりで、どうして焦っているのかも判然としない。それが更に文次郎を苛立たせる。
その行き場のない衝動を抑えるために鍛錬に出たというのに、全く集中できない。ただ我武者羅に身体を動かしても雑念が管を巻くばかりで、こびりつく泥のような疲労感だけが残った。
足を引き摺るようにして長屋に戻ると、夜もすっかり更けたというのに、立て付けの悪くなった戸の隙間から光が漏れている。
珍しいこともあるものだと思って、文次郎は滑りの悪い戸を引いた。戸はガタガタと削れるような音を立て、文次郎は戸を浮かすよう腕に力を込める。昼間には留三郎に直させると言っていたが結局そうはしなかったんだな、と思いながら中に入ると、仙蔵は手元の残り少ない油に火を灯して本を読んでいた。
後ろ手に戸を閉めると、途端、責め立てる様な風がガタガタと戸を揺らし、酷い家鳴りがした。それを気にする様子もなく、仙蔵は手元の本に齧りついて、文次郎を振り返ろうともしない。
唐突に、その背中が酷く遠く感じて、文次郎はぐ、と喉を詰まらせた。
嗚呼、追いかけられていたのではない、俺は追いかけたかったのだ、と思う。ただそこに留まるばかりで足は縺れ、どんなにもがいてもその背中に手は届かない。今朝、そんな夢を見たのだ。
起き抜け一番で忘れた、取りとめもなく詮無い夢だった。けれど問わずにはいられなかった。

「なあ、仙蔵、お前は居なくなったりしないよな」

淡い灯に照らされた白い顔が、ゆっくりとこちらを振り返る。嗤われるかと思ったが、面白い言葉遊びとでも解したのだろうか、返ってきたのは思いがけない言葉だった。

「私が居なくなるとして、それがどうした?」

一瞬、頭が真っ白に染まった。夢の内容が脳裏に蘇る。呼んでも、叫んでも、その背中は振り向かない。泥に取られた足が沈んで、動かない。遠くなっていくばかりで、こちらを見ようともしない背中がもどかしくて、子供のように泣き喚いてしまいたくなった。

「…居なくなるのか」
「樹木でもあるまいし、五体満足の人間を一所に留めることなどできまいよ」
「その足を切り落とせばお前はどこにも行かないのか」

碌に思考も働かず、口からは考えの足りない言葉ばかりが滑り落ちる。
的外れで、愚かなことを言っている。わかっているのに、内心は濁流のように荒れ狂っていて、文次郎はそれをどう静めていいのか見当もつかなかった。
頼りなく視線を揺らす文次郎に、仙蔵は訝しげに眉を寄せた。

「はぁ?…ああ、なるほど。馬鹿らしい」

それからゆっくりと瞬いて、仙蔵は笑う。静かに本を閉じると、身体ごと文次郎に向き直る。真っ直ぐに返された視線に囚われて、目が離せなかった。

「馬鹿なものか、俺は、」
「馬鹿だよ、お前は。私が足を落とせば、どこにも行けなくなるのは私じゃない。お前だよ」

言いながら、仙蔵は目を細めた。意地の悪い顔のようなのに、酷く心が安らいだ。
思わず手が伸びて、その痩身に縋りついた。答えるように背中に回された掌は少し冷たく、しかし優しく宥めるように文次郎を撫でる。胸が震えて、息が詰まった。

「…どういう、理屈だそれは」
「ふふ、わからないか?私は足がなくともお前が背負うのだからいいか、お前は私のいないところには行けなくなるだろう」

その傲慢が、暖かかった。珍しく弱気な文次郎を哀れにとでも思ったのだろうか、仙蔵は酷く優しい。
情けない自分と優しいだけ仙蔵が、らしくないような、逆にそれらしいような、と思って、おかしくて腹を抱えて笑いたい気分になる。それが伝わったのか、先にくすくすと笑い出したのは仙蔵だった。

「…、どんな屁理屈だ…俺がお前を置いてどこかに行ってしまったらどうする」
「それこそ無駄な考えだ。お前はそんなことはしない。できない。お前が私なくして生きてゆくことなど」
「…大した自信だな」
「事実だろう?」
「さあな」

数拍の沈黙の後、おもむろに仙蔵は文次郎の胸を軽く押しやる。考えなしに抱き縋ったものだから、仙蔵の着物は少し着崩れしてしまっていた。
鼻先が触れ合うような距離で文次郎の顔を眺めていたかと思うと、仙蔵はふ、と表情を消す。

「文次郎、」
「…なんだ」
「この足、試しに落としてみるか」
「…馬鹿たれ」

肌蹴かかった着物から覗く細く生白い足は、喰らいついたらさぞかし温いだろうと思って、喉が鳴る。

「ふふ…お前には及ばないよ…」

吸う油の尽きた火が、ふ、と糸を引いたような煙を残して消えた。


10.07.09
拍手お礼<10.01.27〜10.07.09>
会話文だけでしたが少しお話っぽく書き足しました




※学パロ六年生


「…悪い、遅れた」
「ああ、待ってたぞ文次郎。ほら」
「あ?」
「遅刻したんだから全員の荷物持ちだ。当然だろう」
「…委員会で遅れるって言ったじゃねえか」
「私達もみな委員会を定時に終えている。私はそれを考慮して時間を設定したつもりだが?」
「…持ちゃいいんだろ持ちゃ」
「まったくお前に理解力が足らないせいでまた私の貴重な時間を無駄に浪費したな」
「………ってお前らこれ全部俺に持てっつーのか!」
「ん?…鍛錬馬鹿でもさすがに荷が重いか?じゃあ次点留三郎、お前が半分持て」
「はあ!?次に遅かったのは伊作だろ!」
「伊作が遅れたのは私のお使いという立派な人助けだ。それを考慮して伊作は除外。よってお前が次点だ留三郎」
「伊作が遅れたのがお前の使いならお前が持てよ!」
「はて、そういえば留三郎、何か忘れていることはないか?」
「忘れてること?俺は間に合うようにきっちり仕事終わらせてきたぞ」
「そうではない。一昨日だ」
「一昨日?」
「えっと…留さん」
「なんだよ」
「一昨日、仙蔵にノート借りてなかった?数学の。当てられるからって」
「…あ」
「教室に忘れ物したから遅れるって仙蔵にメールしたら、留さんの机からそれ持ってくるよう頼まれたんだよ…」
「そういうことだ。実は今日一限目が数学でな、ノートがなくて困ったんだ…いや、貸したままだったのを忘れていた私が悪いんだがな?」
「…謹んで、持たせていただきます」
「そうか?助かるよ留三郎」
「仙ちゃん相変わらず凄いなー」
「ん?小平太こそさすが体育委員会とバレー部部長を兼任するだけある、五分前行動とは言ってもなかなか出来ないものだ」
「でも今日は長次のほうが早かったな!」
「…今日は、たまたま早く終わった」
「まったく、この二人に爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだな」
「「………」」
「あ、あはは…」


10.07.09
拍手お礼<10.03.13〜10.07.09>
こちらは手直しなし。めんどくさkげふんげふん




※会計委員


その日、会計委員会は荒れに荒れていた。
しかしいつもの荒れ方とは少し様子が違う。鬼のごとくの年度末の決算や、ましては地獄のごとくの予算案会議があったわけでもない。だというのに、一枚の障子を境に一歩踏み出せば、そこは極寒を思わせた。
遅刻というほどではないが定時ぎりぎりに来たのが悪かったのか、はたまた会計委員の中で一番最後に来てしまったのが悪かったのか。一年は組の加藤団蔵はその敷居を跨いだ途端、会計委員長である潮江文次郎によって無言の鉄拳制裁を食らっていた。半ば泣き出す態で仕事に入る団蔵にみな同情の目を向けるが、口を開けば次は己が身、とでもいうような緊迫した雰囲気に、ただひたすらにひたむきに帳簿に向かうばかりだ。
算盤を弾く音に満たされた会計室に、ふいにいきり立った獣のような溜め息がやけに大きく響いた。みなびくりと身体を震わせ一様にそちらを見れば、普段からも寄せている眉に更に深く皺を刻んだ文次郎が歯軋りまでして帳簿を睨んでいる。そして割るような勢いで机を叩いて立ち上がると、今日は解散、と一言告げ文次郎は帳簿と算盤を小脇に鼻息荒く会計室を去っていった。その背中を見送り足音が聞こえなくなってから、会計委員たちはみな一斉に机に突っ伏した。
嵐が去った。四年、田村三木ヱ門はそう息をついた。一人の負傷者は出たが、被害は極めて軽微である。今は全員があの恐怖から生存したことを喜ぶべきだ。心の中で愛する火器たちと涙ながらに抱き締め合い、心の中で今こそ一刻も早く君たちに会いたいと叫んで、心の中で去っていった背中に勘弁してくれと嘯いた。
学園一忍者していると名高い男が、らしくもなく感情を剥き出しにして荒れている。らしくもない、らしくもないが、あの男をここまで荒れさせる理由には多少の心当たりがあった。いや、多少なんてものじゃない。まず間違いなく、潮江文次郎の同室である、立花仙蔵だ。何があったかは知らないが、何かがあったのは火を見るより明らかだ。立花仙蔵は曲者揃いの学園で唯一潮江文次郎を御す、というより弄ぶ人間で、よくも悪くも後に禍根を残すのだ。
一見して潮江文次郎とは好敵手としてよく争っている食満留三郎だが、かの男と争った後には多少苛立ってはいるものの、言いたいことは言いど突きあうだけど突きあった後なだけあり、あたり散らすような真似はしない。今回のようなことは決まって立花仙蔵だ。三木ヱ門は断言する。それにしても、思わずぼやいた声は随分情けなかった。

「あんな恐ろしい八つ当たりは、見たことがない…」

願わくば、せめて次の委員会までにはことが上手く収まっていますように、そう祈るばかりだった。


10.07.09
拍手お礼<10.06.01〜10.07.09>
改変なし


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