鵺式。
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※学パロ




「耳穴かっぽじってよく聞けよ!」
「私の耳穴にほじって出てくる垢など一片もない。お前の汚い耳穴と一緒にするな不愉快だ」

ああ言えば、こう言う。
第三者として見れば酷く子供らしい争いだが、当人達にしてみれば一歩として譲れない理由があるのだろうと思う。思うのだけれど、それを当人の間だけでなく他所に持ち出して更に周囲を巻き込んでの大論争、というのは穏やかではない。顔を付き合わせれば取っ組み合いの大喧嘩、とは、文次郎と留三郎ではなかったか。
もう数日に及ぶ喧嘩を目の前にして、伊作は溜息をついた。
聞くに堪えない罵りと、劈くような怒鳴り声の応酬。耳を塞いでしまいたいのは山々だが、あるいはこれが他人事ならばそれも出来たのだけれど、喧嘩をしているのは他ならぬ友人達である。殴り合いの喧嘩にまで発展していないのは一重に、仙蔵が拳ではなく言葉の喧嘩を得手としており、かつ文次郎が仙蔵に対して一方的に暴力を振るうのを躊躇っているからに他ならない。けれどやはり言葉の喧嘩では文次郎に勝ち目はない。文次郎は言い負けた鬱憤を周りに当り散らす。それをまた仙蔵が煽り囃し立てる。状況は悪化の一途を辿っていた。

「ああ?そんなもん、熨斗つけてくれてやる!」
「着払いで返送してやる」

ああ、そろそろだ、と思って、伊作は口を開きかけた。
ここ数日の経緯から、そろそろ本当に止めなければまた教室の備品が大破する。暴れる文次郎を宥めるのは骨で、何度とばっちりで殴られたかわからない。仙蔵もそれで引いてくれればいいのに、それを種にまた文次郎を焚きつけるようなことを言う。いくつ命があっても足らないとはこのことだ。しかしそうでもしなければ収まらないのだから仕様がない。性分で、それを放っておくことも出来ない。我ながら不運だ。

「おい、お前らいい加減にしろよ!」

その日初めての、第三者からの大声が教室に木霊した。しん、と静まり返った教室で、視線を一心に浴びているのは留三郎だ。意を決した途端の出来事に、伊作はただ呆気に取られていた。

「お前らがそうやって喧嘩やってんのは構わねえ。だけどそれを宥めようっていう伊作に生傷が絶えねえのはどういうことだ、やるなら勝手に他所でやってろ!」
「留さん…」

心配そうに見る留三郎の視線を受けて、じん、と感じ入る伊作だった。ついに終結か、と空気が緩んだのもしかし束の間のこと。

「黙れこの短小包茎が」

仙蔵の鈴が転がるような声が、再び教室を震撼させた。これには留三郎も反応できず、ぽかん、と口を開けて呆けている。そうして数拍、はっとして、顔を真っ赤にして言い返そうと口を開いた留三郎を、留めなければと今度こそ伊作が立ち上がりかけた時だった。
バンッ、と、静まり返っていた教室にはあまりに大きな音が響いた。あまりに突然のことで、耳の内をぐわんぐわんと音が反響しているような気がする。仙蔵が自身の机に掌を叩きつけて立ち上がったのだ。
そのまま暫く俯いていた仙蔵は、ぎぎ、と音でもするのではないかというほどゆっくりと首を動かし、留三郎を見た。留三郎といえば、まるで蛇に睨まれた蛙のようにぴくりとも動かない。留三郎だけではない、伊作も、教室の誰もが、凍りついたように動けない。文次郎でさえ、驚愕したように目を見開いていた。

「…留三郎、そんなに死にたいか?」
「いや、俺今朝蟻踏んづけちゃって地獄行きかもしれないから今日は遠慮しておきます」
「…ふん、猪口才な。伊作、私は帰る。担任に伝えておいてくれ」
「う、うん」

興が殺がれた、とでも言うように仙蔵は留三郎を一睨みに捨て、まだ午後の授業も残っているというのに颯爽と歩き出す。それを扉が閉まる最後まで静かに見送って、張り詰めていた糸が切れるように教室の全員が脱力した。
よろよろと伊作の隣の席に座り込んだ留三郎は真っ青な顔で、よほど恐ろしかったのだろう、目には涙を溜めていた。

「俺が死んだら泣いてくれ…」
「ああ、大宴会してやるよ」

擦れ違い様、留三郎の泣き言に返して、仙蔵の後を追うように文次郎も教室を飛び出していった。それをぼんやり見送って、二人して早退なんて担任になんて説明するんだよ、と遠い目をする伊作の隣で、今度こそ爆発した留三郎が怒声を上げる。

「殺すアイツぜってー殺す服脱いで待ってろや!」
「いや留さんそれちょっとかなり違うかな」

やっぱり、不運だった。






10.04.28
「耳穴かっぽじってよぉく聞けよ!」「垢しか出ねぇーぞ」
「熨斗付けてくれてやるっつーの!」「返品届付けて返すよ」
「一回死んでみるか?天国見せてやるよ」「俺今日アリ殺したから地獄行きかもしんない」
「俺が死んだら鼻水垂らして泣くがいいよ…」「お前が死んだら大宴会してやるよ」
「短小包茎のくせに何を言う!」「はっ、何故その秘密を…!」
「…ハッ、猪口才な」「うわーそれちょームカツク」
「殺す、ぜってー殺す服脱いで待ってろ」「いや、何か違う」

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