鵺式。
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※学パロ




早朝。
部活の朝練習のある文次郎は、まだ人気のない静かな廊下を歩いていた。いつもならば校舎の離れにある道場に直接行くのだが、今朝は教室に忘れたテーピングを取りにきたのだ。
普段から登校自体かなり早い文次郎だが、こうして早朝の校舎を歩くことは滅多にない。なんとなく清々しいような物悲しいような、しん、と静まり返った廊下は、文次郎一人の足音を酷く大きく響かせた。
そうして教室前までやってきて、何の心構えもなく扉を開けた文次郎は直後硬直する。そこには、まだうっすらと暗い教室の片隅で、微かに差した朝日を浴びながら佇む仙蔵がいた。

「お、う」
「………」

咄嗟に声をかけて、何の反応も返す様子のない仙蔵に内心舌打つ。言いたいことを堪えるように奥歯を噛み締めて、文次郎は自身の机へと目を向けた。

「…おい」

返事はないとわかっていても、文次郎は声をかけずにはいれなかった。その場で頭を抱えてしまいたくなったが、辛うじて堪える。机の中からもうほとんど残っていないテーピングを取り出して、道場に行かねば、と思うのに足が動かない。
手の中にテーピングを握り締めたまま、文次郎は途方に暮れていた。
わかっていたのだ。もう一週間続いていたことだし、現行を目撃したわけではなかったが心当たりが、というよりこんなことをやってのける人間は一人しかいない。しかし週末を挟んで暫く会わないうちに忘れていたというか、何の根拠もなく週明けには元通り何事もなかったかのように接することができるのではと期待してもいた。今でも自身の過失は無ではないにしろ、少ではあると思うし、これでは根本的な解決にもならないだろうとも思う。
文次郎はテーピングを机の上に置き、静かに仙蔵の傍に歩み寄った。仙蔵は尚も、まるで文次郎は存在していないかのようにただぼんやりと窓の外を眺めている。

「なあ、仙蔵」

なるべく心がけて穏やかに、声をかける。心臓が絞られたようにきゅう、と縮んだ気がした。

「何の嫌がらせか知らねえが、毎朝俺の机に花を置くのはよせ」
「…ああ、まだ生きていたのか」

ゆっくりと振り返った仙蔵と、数日ぶりに目が合った。
その瞬間、ついに心折れた文次郎は、直後白旗を掲げたのである。






10.04.28
「何のイヤガラセか知らねェが毎日俺の席に花を置くのは止せ」「ああ生きてたのか、悪い忘れてた」

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