鵺式。
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※ちったくなった仙蔵




夜明け前に叩き起こされて、寝惚けていた。あるいは疲れていたのか、おかしな夢を見た。

というわけではなかったらしい、と思いながら、幼くなった仙蔵と共に寝具を片付ける文次郎だった。
本人曰く半分に縮んでしまったという背丈では、布団一式を片付けるのは少々手に余るらしい。両手で抱えるようにしてずるずると引き摺られる布団を文次郎が受け取り、こっそり簡単に畳み直して押入れへと仕舞う。
昨夜はとりあえず、そのまま寝た。
仙蔵自身、数年分若返ったようなのは理解していたが、どうしてそうなったのか心当たりはないという。もちろん文次郎にもさっぱりである。特にどこかが痛いとか、苦しいとか、そういったものはないというし、何より文次郎は眠かった。恐らく多少寝惚けていて、疲れてもいたのだろうと思う。朝まで戻らなかったら誰かに相談しよう、そういうと仙蔵も頷いたので、文次郎は考えることをやめた。頭のほんの片隅で、起きたら夢だった、という展開を期待してもいた。
そうして目が覚めたら、腕の中で小さな仙蔵がくうくう穏やかな寝息をたてていた。
文次郎は凹んだ。顔には出さないがそれは盛大に凹んだ。当の小さくなった仙蔵を湯たんぽ代わりにして暢気にぐーすか寝ていた自分を色んな意味でぶん殴りたかった。精神的な意味でならともかく、身体的に幼くなるなどあり得ない。しかし実際にあり得ないことが起こっているのだから、仙蔵の身に何かの異変があるのは明白だ。あるいは命に関わるかもしれない事態だというのに、と思って、しかし当の本人に緊張感が全くないなのでどうも危機感を削がれる。
現に、目が覚めてすぐに飛び起き、小さな仙蔵を小脇に抱え廊下へ飛び出して行こうとした文次郎に、布団を仕舞っていない、と待ったをかけたのは他ならぬ仙蔵だった。

「さて、では行くか」
「待て、仙蔵」
「なんだ」

一仕事終えたとでもいう風に一息ついて、部屋から出ていこうとする仙蔵を文次郎は呼び止めた。
仙蔵曰く、昨夜床に就くまではなんともなかったらしい。つまり、仙蔵はいつものように床について、鍛錬から戻ってきた文次郎の立てる物音に目が覚め、その時には小さくなっていた、と。
あえて目を逸らしていたが、要するに、寝間着の寸法が合っていない。寝間着は肩までずり落ち、帯は今にも解けそうだし、裾は余ってずるずる引き摺られ、合わせから覗く白い太股が目に痛い。
相手の姿は子供なわけで、文次郎自身そういった趣味はない。やましいことは何もないのに、しかし悪いことをしている気分になるのは何故だろう。ましてやこの状態の仙蔵と同じ布団で寝ていたのだと思うと、いや、これ以上考えるのはよそう。
文次郎は仙蔵を呼び寄せるとだらしないから、と帯を解き、裾を上げ、合わせをきっちり閉めて帯を巻き直した。仙蔵はされるがままで、文次郎が帯を結び終えると満足げに頷く。体が幼児化すると精神も釣られるのだろうか、いつもより随分素直だが尊大なところは変わらなくて、文次郎はなんとなく安堵した。
自分の着替えも手早く済ませ、襖を開く。朝日が目に眩しい。

「じゃあ、行くか」
「ん、」

袴を後ろから引かれ振り返ると、仙蔵が小さな手をこちらに伸ばしている。一瞬なにかと思って、やっぱり仙蔵の意図がわからず、文次郎は首を傾げた。

「歩きづらい」
「…ああ」

思い当たって、文次郎は頭を抱えたくなった。自分で歩け、と言いかけて、また着崩れた着物を想像しもう一度布団を被りたくなった。しかしどうしたって状況はそう変わらないだろう。文次郎は意を決し、手を伸ばす仙蔵の脇に腕を回し軽々と抱き上げた。腕の上に座らせるように抱き直すと、仙蔵は体勢を安定させようと文次郎の首に腕を回し抱きつく。面と向かって目を合わせることがない分気まずくはないが、首に触る仙蔵の髪が少しくすぐったい。

「とりあえず伊作のところか?」
「ああ」

仙蔵を抱き上げたまま、文次郎は廊下に出た。
こういったこと、いわゆる不運なことに耐性がありそうなのは、もちろん善法寺伊作である。あるいはこれは薬で治るものかもしれない。となればますます保健委員会長である伊作の出番だ。それでもどうにもならないなら教師に相談もしなくてはなるまいが、当人もできれば大事にはしたくないだろう。
早朝の人気のない廊下を歩きながら、誰に出会ってもいい。ただ願わくば、目的の人物の同室にはこの状況で出会いませんように。しかし恐らく無理だろうと思って、文次郎は盛大に溜息をついた。





10.03.30
なんか文次郎変態くさい

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