鵺式。
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※ちったくなった仙蔵




まどろんだ意識の中をたゆたっていた文次郎は、身体を揺り動かされて目が覚めた。

「おい、起きろ文次郎」
「…ああ?」
「起きろ」
「俺はさっき寝たばっかりだ…」

半ば夢心地に気の抜けた返事を返す。
呼ぶ声には覚えがある。同室の男だ。ただもう少し低かった気がするが、口調から間違いない。
起きろ、というが、今しがた文次郎は深夜に及ぶ鍛錬を終え、疲労した身体を布団に横たえまさに深く眠ろうとしていたところだった。すでに日が昇りかけ辺りは明るくなり始めているが、それでも日の出までまだ小一時間は眠れる。文次郎が戻ってきたことで夜明け前に起こしてしまったなら悪かったとも思うが、だからといって文次郎とて仮眠くらいとらなければとてももたない。
もう少し寝かせろ、と布団に潜り込もうとして、頭をはたかれあげくに掛け布団まで剥ぎ取られてしまった。春先とはいえ、夜明けの空気はまだ肌寒い。

「黙れ鍛錬馬鹿、さっさと起きろ」
「…ったく、なんなんだ」

布団を剥がれてしまっては寒さで眠るに眠れない。仕方なしに文次郎はのろのろ身体を起こし、大きな欠伸を一つ。文句の一つも言ってやろうと顔をあげて絶句する。
そこには少女にも見紛うほど小奇麗な少年が一人、文次郎の傍にちょこりと正座し、まんまるの大きな目でこちらをじっと見つめていた。
あり得ないとは思いつつも、その少年の姿に文次郎は心当たりがあった。ちょうど五年前、忍術学園に入ったばかりのころ、てっきり少女だと勘違いした文次郎はこの少年に一目惚れした。後に男だと知って、大変な衝撃を受けたものだ。その少年は奇しくも、今尚女顔負けの美貌を備える、同室の男である。

「……仙蔵か?」
「違いなく、私は立花仙蔵だ」

くっきり、はっきり、少年は言い放った。
確かに確かに、少年は五年前の立花仙蔵に相違ない。不本意ながら文次郎は初恋の衝撃とともに出会った頃の少年の容姿を鮮明に思い出せる。
だがしかし、ならばそれから五年経った、美しい男は何処へ消えたというのか。

「…もうちっとでかくなかったか、お前」
「ちっと、とはなんだ。私はあと倍はあったぞ」

そういって胸を張る少年の頭に何気なくぽて、と掌を置く。
五年前、この髪に触れるようなことはなかったが、なるほど、触り心地は変わらない。

「倍、かどうかはわからんが」
「あった」
「…そうか」
「うん」

艶やかな髪をくしゃりと撫でる。もちろん触り心地はいいのだが、珍しく嫌がらないなとぼんやり思った。

「……で、何がどうしてそんなんになってんだお前」





10.03.24
この落ち着き具合がさすがの熟年夫婦

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