鵺式。
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※多分年齢操作→上級生




突然目の前に突き出された拳。最初殴られるのかと思って、びくりと身体が震えた。
けれどそこから動かずじっとしているのがわかって、ああ何か受け取って欲しいのかな、とほっとして、それから少し苛ついた。
殴られると思ったら逃げればいいのに、こいつに限ってそんなことはないと信用している。それがなんだからしくないというか、むず痒いというか、なんとなく落ち着かなかった。
とにもかくにも、握られているものを受け取らない限りは拳も引っ込まないらしい。掌を上にして差し出すと拳はゆっくりと降りてきて、そっと何かを落とした。
掌には、落ち着いた色彩の、しかし丁寧な細工の髪結い紐が一本。
思わず、溜息をついた。

「お前なー…こんなもんに銭使うなよ…」
「えー…何その反応ー」

団蔵は思わしくない反応に、鼻の頭をかいた。
似合うと思って、綺麗でしょ。そういってはにかむ団蔵を横目に、きり丸は髪結い紐をまじまじと見る。
見れば見るほど見事な細工だ。野良忍者、しかも見習い、そんな男が身に着けるには過ぎた代物であるのは確かだった。これほど見事なら化ける時ぐらいには役立ちそうだが、いかんせん自分は成金の坊というにはたっぱもなく線も細い。女装ならば誤魔化しも利くが、濃紺の結い紐は女が使うには幾分地味だ。
無意識のうちに売ったらいくらになるかな、そんなことを考えていると、もー、と団蔵が鳴いた。

「きりちゃん、また目が銭になってる」

咳払い一つで誤魔化して、きり丸は団蔵をじとりと見る。

「こんなもん、どうするんだよ」
「使ってよ」
「髪結い紐なんて消耗品なんだから、麻で編めば十分だろ」

言いながらも大事そうに結い紐を眺めるきり丸に、若干不服そうな団蔵は辛うじて溜飲を下げた。受け取ってもらえたなら、それで、まあいい。

「言っとくけど、銭を粗末にすると銭に泣くんだぜ」

返すつもりなんかないくせによく言うよ、言い返しながら団蔵は結い紐を買ったときのことを思い返していた。
活気ある町に並ぶ商店、その中で一際鮮やかな店先。女物の華やかな装飾品達の中片隅に追いやられた男物の装飾品の棚に、一際目を引く濃紺。引き寄せられるように手にとって、最初に思い浮かんだのはきり丸の後ろ姿だった。揺れる黒髪、撫でるように絡まる濃紺の髪結い紐、翻して振り返る困ったような照れたような表情。

「…泣かないよ」
「あー、そう、じゃあ俺がこれ売り払っても泣くなよ」
「うん」

意地悪く笑っていたきり丸は、一瞬きょとん、と目を見開いて、それからばつが悪そうに視線を泳がせた。
そうそう、これ。嬉しくなって、団蔵は笑った。

「売り払ってもいい。でも一回だけ、一回だけでいいから、使ってね」

そのほうがお得でしょ、そういうと、きり丸はますます苦虫を噛み潰したようになって、団蔵はますます嬉しくなった。
考えとく、そういってきり丸は髪結い紐を握り締めて、踵を返した。さらりと静かに揺れた後ろ髪は艶やかで、触り心地は大層良いだろうと思う。
きり丸は顔に出ないけれど、焦っているのに余裕を装いたい時、後ろ髪は左右にゆったり揺れる。いつもは世話しなく動き回って元気な猫みたいにふわふわしているから。これに気が付いたのはつい最近のことだ。
そういうお前は犬の尻尾みたいにぴょんぴょん跳ねるじゃないか、そう返されたのも最近のこと。

「絶対だよ、約束」

静かに揺れるきり丸の後ろ髪を眺めながら、一番見たい表情もそう遠くなく見れるだろうと思った。





見返り美人に首ったけ





10.03.14
団蔵はにこにこしながら買って店主にからかわれたと思う

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