鵺式。
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冷たく、暗く、湿っぽい部屋だった。いつの間にこんな部屋に連れ込まれたのか、ついぞ覚えがない。
そう、気がつけばこの部屋にいた。そして後ろ手に全身をきつく縛り上げられ、身動きも取れずに床に転がされている。闇に慣れた目が用心深く周囲を探ると、薄ぼんやりと人影が浮かんで、その正体に飛び上がるかと思うほど驚いた。

「…立花先輩」

口角を吊り上げて嗜虐的な笑みを浮かべる、立花仙蔵がそこにいた。
芋虫のように地を這う己を、品定めでもするように見下す目は酷く加虐じみて、見られて思わず背筋が粟立つ。

「気分はどうだ?鉢屋」

そんなもの最悪に決まっている。答えるまでもないと首を巡らせ睨み付けると、仙蔵はますます笑みを深くした。

「これから何をされるか、賢いお前ならわかるだろうな?」

蔑むように投げかけられて、不覚にも体の芯が疼く。着衣の上から麻縄が全身に這い、みじろぐたび走る淡い刺激に喉が震えた。
自分からは見えないがこの縛り方はどうやら亀甲縛りのようで、更にご丁寧に手足まで縛り上げられている。まるで劣情でも煽るような、と思って血の気が引いた。

「ふふ、怖いのか?」

近く屈んだ仙蔵の冷たい指先が伸びて、さわりと三郎の顎を撫でる。
確かに屈辱であるはずなのに、何故か全身が痺れたように動かない。背反した感情を見透かすように、仙蔵が双眸を細めた。

「なあに…お前はただ身を任せればいい。お互い楽しもうじゃないか…」

酷く蠱惑的な囁きに、三郎は震える吐息を溢した。



「…という、夢を今朝見まして」

常々底が知れない奴だとは思っていたが、どうやら底は抜けていただけらしい。
廊下を歩いているところを呼び止められ、思い詰めた顔をしているから何かと思えば。品位を疑うようなことを真顔でとつとつと語った鉢屋三郎に、仙蔵は心底幻滅し、そして戸惑っていた。三郎が救いようのない馬鹿で、仙蔵に対し在らぬ妄想を抱いているのはよくよく理解したが、それを自ら露呈し貶める意図がわからない。
わからないが、ただ、舌の根が焼けるほど嫌な予感がした。

「立花先輩にお願いがあるんですけど」

聞きたくない。逃げたい。
並々ならぬ緊張に口がからからに渇いて、逃げ道を探して視線が右往左往する。その混乱に乗じていつの間にか壁際に追い詰められていたことに気付いたときには、既に後の祭りだった。
ぱっとにじりよられ三郎の両手が仙蔵の両手を取りぎゅうと握りしめる。上目に懇願するような視線に思わずひゅ、と息を呑んだ。

「勉強させてください」

数拍の沈黙の後、やっと意味を理解して引けた腰が危うく抜けかけた。
霞む意識を何とか鷲掴み手繰りよせ、絞り出すように問う。

「…なに?」
「これは雷蔵にやってもらわねばと思ったんですけど肝心の縛る過程がなかったんで、朝から気もそぞろでもう授業どころじゃないんです。あ、なんだったら私が縛る側でもいいですけど」
「嫌だ、知らん、離せ!」
「はァはァはァはァはァはァはァ」
「イヤァアァアアッもんじいいいいいーッ!!!!」



その日、文次郎の後ろに隠れるようにしてめそめそと泣き崩れる仙蔵と、対面に土下座した雷蔵の横で焼き土下座させられた三郎の姿があったとか、なかったとか。





夢は落ちても現で拾う






11.12.02
夢オチはジェネラリスト^p^

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