鵺式。
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※いい夫婦の日




秋深まる昼間。この日六年生は午後の授業がなく、各々思い思いの午後を過ごす。
自室で静かに読書を楽しむ立花仙蔵のその隣で、片や潮江文次郎は背中を丸めて机に向かい、今日中に提出しなくてはならない会計委員会の帳簿と睨み合っていた。かれこれ三日はかかり切りの、憎たらしい奴だ。
苛々と弾いた算盤が勢い余って横滑りし、その頁の計算が全て無駄になったところでとうとう文次郎は算盤を投げ出した。

「…っだー、」

しつこく這い上がる眠気を追い払うように低く唸る。
三徹目の昼、この時間が文次郎にとって一番の山だ。徹夜はいつものこととは言え、そりゃあ文次郎とて夜に寝なければ昼に眠い。
しかし一周回って感覚が馬鹿になるようで、この峠を越すと逆に頭が冴えてくる。そうして着々と隈をこさえては仙蔵に揶揄られるのが常だった。しかしこの昼の瞼がとんでもなく重い。
眉間に固まった皺をごりごり揉み解していると、背後に膝をついた仙蔵が、不意に文次郎の両肩に手を置いた。何をされるかと思えば、両親指の腹で凝り固まった肩をぐいぐい押し出す。珍しいこともあったもので、要するに肩揉みをしてくれようということらしい。いつもは呆れ顔で頬杖をつくばかりなのに。

「あ゛ー…」

指圧の心地よさに思わず呻くと、仙蔵が背後でくすと笑った。
肩に留まらず、首筋、耳裏、肩甲骨、背筋と、まさに至れり尽くせりである。
冬も間近に迫り、今日に限っては朝から底冷えするような寒さだが、全身がぽかぽかと温まり余計に眠気を誘う。そろそろ切り上げて貰わなければ本当に寝てしまう、しかし滅多にない奉仕を無碍にするのも惜しい。
しかしこれが全く出来た奴で、本格的にうとうとし始めた文次郎の背中を、仙蔵は気合を入れてやろうとばかりにばしん、と思い切り引っ叩いた。びり、と痺れたような痛みが走って、半分眠っていた文次郎は肩を怒らせて飛び上がる。おかげですっかり眠気が吹き飛んで、代わりに背中がじんじん熱を以って痛み出した。
今夜はもみじが見れるかな、そう嘯いた仙蔵に、お前からは見えねえよ、と文次郎が皮肉る。全く昼間っから、頬にまで揚がったのはなんの熱やら。

「ほら」
「ん」

投げ出されていた算盤を仙蔵から受け取って、文次郎は再び帳簿に向かう。
願いましては、と算盤を弾き、ちらりと横目に見るとばっちり目が合って、仙蔵は目元を微かに染め艶然と微笑んで見せた。
これは、どうも帳簿が片付いても今晩は眠れそうにない。





君惜しむ肱が抱く






11.11.23
遅刻^p^ 六いに倦怠期などないッ!

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