鵺式。
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※現代六年生 年齢操作→成人後




夕刻、遅れた留三郎と文次郎がやってきて、その日数年ぶりに顔馴染みが揃うこととなった。
こうして同じ場所に立つ彼らだが、その肩書きはみな違う。エンジニア、研究員、サラリーマン、体育教師、図書館司書に茶道老舗の若旦那と、誰がどれとは語らないが多種多彩である。しかしそんな彼らがみな一つの繋がりを持つに至ったのは、高校時代を共に過ごしてきたからだった。
クラスは最初の一年はみな同じクラスだった。しかし部活も委員会もばらばらだったし、性格も好みも合う奴など一人も居なかった。妙に気だけはあった。自然とみなでたむろするようになり、学生時代の思い出といえばこいつらの顔が浮かぶ、そんなくらいには仲も良かったはずである。
そんな彼らだが高校を卒業してからはぱったり連絡も取り合わなくなった。そもそも男友達相手に元気でやってるかとか今どうしてるとかそんな連絡がこようものなら、何を企んでいるのかとか死期が近いのかとか、そんな風に思う連中ばかりだったからそれも当然だっただろう。
ただ幼馴染である仙蔵と文次郎、不運な伊作とそれ放っておけなかった世話焼きの留三郎、猪突猛進な小平太とそのストッパー役の長次、それぞれ接点はあったが、六人がみな揃ったこの場で取り上げることではない。
ほとんど連絡を取り合っていなかった彼らがまたこうして集まったのは、仙蔵から突然の招集があったからだった。

『久しぶりに遊んでやる』

その一言に日時と場所だけ添えられたメールがそれぞれに一斉送信されたのは、今日という日の一週間前だった。それぞれに事情のある彼らが求められた日に誰一人と欠けず揃ったのは、ただの偶然か何かの啓示かそれとも誰かの陰謀か。
そうして集まった彼らに仙蔵が提示したのは、遊びとは冗談でも言えないような、気が触れたとしか思えないようなことだった。もちろん、当人は冗談で言っているつもりは毛頭ないのだろうが。

『某大手企業の社外秘を盗み出す』

とある大手企業のコンピュータ内にある企業秘密を抜いてくること、つまり一種のサイバーテロだった。もちろん、立派な犯罪である。学生の頃もみなで大分やんちゃをしたものだが、それとこれとは話が違う。その上、仙蔵はそうする理由を語らない。
けれど結局、誰一人として降りる者はいなかった。
子供らしいの悪戯でもない。情報を悪用する気もない。彼らはただ、驚いて、ハイリスクノーリターンだとわかって、少しだけ昔を思い出して、やると決めた。
彼らは、みなが揃えば不可能なことなど何もないのだと信じていた。そして今もその認識は変わらない。
それだけだった。

そしてその日、伊作の掌に乗っているほんの親指の爪ほどのチップを囲むようにして、念密な作戦会議が始まっていた。

「これは、簡単に言うと常に特殊な音波を発してその反射を解析する機械だ。例えば、Aに付けられているとしよう。Aがこれをつけている間、こいつがAを起点にその周囲5メートルを3Dで捉えリアルタイムでこのモニターに転送する。つまり、Aが移動する範囲の厳密な3Dマップを自動的に作ってくれるんだ」

伊作は得意げに胸を張る。
厳密にどういった仕組みなのか他の誰にもわからないが、高度な技術であることは容易にわかった。こんな技術があって何故それまで存在が知られていなかったのかと考えて、なるほど、こんなもの一般人の日常生活においては使う用途などなさそうだと文次郎は納得した。

「…蝙蝠みたいなものか」
「なるほど…しかしその、そう厳密にとはいかないんじゃないか」

留三郎と文次郎はチップをまじまじと眺めて、首を傾げていた。
精密機器の構造など門外漢である彼らに詳しいことはわからないが、もしそれが本当ならまるで魔法のアイテムのように聴こえる。

「こいつは有能なんだ。人間や鉢植えとかのインテリアは勝手に修正するようになってるし、それだけでも僕達が見れば申し分ない3Dマップになるはず。データ上どうしても不足はでるだろうけど、そこは僕が直接修正すれば済むから」
「ただ難点が二つだけある」

そこで、それまで一歩引いて傍観していた仙蔵が口を開いた。
仙蔵は以前から伊作に技術協力を求めていたようで、彼ら二人の間だけで作戦のある程度はすでに検討済みのようだった。

「そう、一つは範囲が5メートルってこと。5メートル内に反射するものがあれば反射した音波を感知できるけど、それ以上になると反射する音波が届かない。だからあんまり広いホールなんかだと、まだ先に空間があることぐらいしか感知できない」

コンピュータゲームの、自分で歩き回って作り上げていくダンジョンマップみたいな感じだよ、と伊作は続ける。ゲームはそこそこわかる留三郎はああ、と頷く。

「人がつけると仮定して、横に広いだけなら歩き回ればいいんだけど、縦に広いとどうしても捉えられない。人間は飛べたりしないからね。急造だから、これしか作れなかった」

申し訳なさそうにする伊作に、仙蔵は十分すぎる、と言って笑った。
急造というには高度すぎる技術を、伊作は当然のように出してくる。有能という言葉では足りない、天才的な腕を持つ技術者だ。そんな男が一介の研究員を勤めているというのは、この男にとっても男の勤める研究所にとっても不運に他ならないのだろうが、そんな技術を大したリスクもコストもなく簡単に手に入れられるのだからこちらとしては大した僥倖だ。

「それはわかった。だがあと一つは?」

留三郎の問いかけに、仙蔵と伊作は顔を見合わせて、次にさきほどからソファーに寝転んで動かない小平太を見た。

「小平太、気分はどうだ?」

仙蔵が声をかけると、小平太はのろのろとこちらを見て、最悪、と呟いた。

「そのちっこいのやっぱり頭がキーンとする…説明終わったならしまって」

言い終わらないうちに、小平太はまたソファーに寝転んでしまう。それを見て仙蔵はけらけら笑い出し、伊作は苦笑した。

「その…小平太はこういうのとは相性が悪いらしくて…、本来人間には感じられない程度の音波のはずなんだけど、人によっては相性が悪いと影響があるみたい」
「さすが小平太、野生動物並みの感性を持っているんだろう。我々五人は生体データと照合した結果問題はなかったから安心しろ」

現に支障はないだろう、とけろりと言う仙蔵に、留三郎は目を剥く。文次郎といえば、諦めたような渋い顔をしているだけだ。

「生体データって、そんなもんいつの間に取ったんだよ…」

仙蔵は問いを当然のように黙殺する。伊作は苦笑を深めながらキーボードを片手で軽やかに叩き装置を停止させると、持っていたチップをそっとケースに戻した。小平太は未だ唸りながらソファーから起き上がり、背凭れに背中を任せぐったりとしている。そんな小平太にいつの間にか入れてきた熱い茶を長次が手渡し、そこにいるみなにも茶を入れた。それを受け取って、話は続く。

「今回のターゲットは『社外秘』と、ついでに社内の精密なマップもとる」
「作戦前にもある程度マップが欲しいから、事前に社内にこのチップを仕込む。あとは作戦実行当日実際に身につけて厳密なマップを作りながらになる。これはGPS機能にもなるから、こちらから事前に手に入れたマップを使って誘導も出来るし。前者は仙蔵と長次に任せてある」
「事前に社内に入れるようなコネを持っているのは私と長次ぐらいだからな。色々検討しているところだ」
「この様子だと小平太には使えないけど、そこは長次と行動することでフォローしてもらう。作戦時直接社内に潜入するのは留さんと文次郎と仙蔵。仙蔵は関係社員に混じって潜伏。小平太と長次は陽動。留さんと文次郎はターゲットの奪取。僕はみんなのバックアップだ。いいかな?」
「ああ」
「かまわん」

留三郎と文次郎に続いて長次も無言で頷く。ただ、小平太は作戦に陽動としてしか関われないことに不服があるようで、若干膨れっ面だ。しかしそれに気にした様子もなく仙蔵は続ける。

「それぞれの役目を指す呼称を決める。作戦時の無線はこれで呼び合うこと。私は『ブロッカー』、伊作は『セッター』、文次郎と留三郎は『スパイカー』、長次は『リベロ』、小平太は、『スーパーエース』だ」
「私は『スーパーエース』か!」

仙蔵が「ブロッカー」、と発言した辺りから一変して目をキラキラと輝かせていた小平太は、最後には堪え切れず勢い勇んで立ち上がった。これに仙蔵はにこっとする。

「ああ、『スパイカー』どもが役に立たん時はお前が頼りだ、『スーパーエース』」
「任せておけ!いけいけどんどーん!」

俄然張り切りだした小平太を遠目に見て、文次郎は仙蔵を振り返る。

「役立たずで悪かったな…、それにしてもなんだ、その呼称は」
「バレーボールのポジションだ。そうでもなければあいつは覚えん」

なんでもないように答えて、本当に役に立たなかったら殺すからな、と付け足すのを忘れない。
無線を扱うに当たっては傍受される可能性もある。だからと言って最低限の連絡もなくてはいざというとき連携が取れない。その際いちいち本名で呼び合っていてはいざ傍受されたとき厄介だ。用心に越したことはない。
確かにコードネームの必要性は認めるが、なんだかそれらしすぎて小恥ずかしい呼称だと文次郎は思う。

「無線は仙蔵だけは骨伝導式で、あとはみんなインカムでいいよね。仙蔵だけは顔を出して人前に出ることになる。気をつけてね」
「ああ」
「あとは作戦当日まで僕は引き続き情報収集、仙蔵と長次は大まかなマップの作成だ。留さんと文次郎と小平太は僕を手伝って」

その指示にみなが頷く。いつもは不運な伊作を見てきただけに、伊作にこんなリーダーシップがあるとは意外だった文次郎である。

「言ったろう」

いつの間にやってきたのか、背後で文次郎にだけ分かるように、仙蔵はニヤリと笑った。

「腕も、確かだと」

学生時代、人はいいが何かと鈍臭い伊作を『不運なのは確か』と評価していた仙蔵を思い出す。
なるほど、と思って文次郎も微かに笑う。サラリーマンの貴重なアフターファイブを費やす価値はありそうだ。






午後五時以降の過ごし方






10.03.13
現代六年生が忍者っぽいことしてたらという妄想

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