鵺式。
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※少し痛いかもしれない





業火に巻かれて、仙蔵は半ば飛びかけた意識を死に物狂いで繋ぎ止めていた。
ここで倒れてしまえば炎に焼かれ死ぬ。酷い頭痛と耳鳴りがするが、幸い足は動いた。ともかく、火が回る前に脱出しなければならない。
辺り一面を焼く炎を掻い潜りやっとのことで転がり出ると、そこに文次郎が駆け寄って肩を貸した。そのまま休まず重い体をひきづるように丘を越え木々の深い山に入る。
木々の合間から見える遠くの空は赤く焼かれ、黒煙が渦巻いていた。しかし風上の山には肌が焼けるほどの熱風も煙のきな臭さもない。
斜面に立つ大木の根に編まれた陥没に身を潜ませると、やっと腰を下ろして息をついた。
喉が枯れて張りつくのが鬱陶しいが、飲む生唾もとうに枯れている。
同じように身を潜ませる文次郎が、覆い被さるように仙蔵の視界を塞いだ。気遣うように頬を滑る文次郎の手のひらが酷く熱く、焼けた肌を余計に焦がすようで、煩わしげに顔を背ける。しかしそれでも肌に張り付いた熱は離れなかった。横目に睨んでやると、文次郎は思ったよりも間抜けた顔をしていて笑えた。
頬を両手で包まれ向き直って、正面から視線を交わす。文次郎の唇が微かに震えた。些末な読唇術で名前を呼んだようなのがわかったから、仙蔵は返事代わりに口角を吊り上げる。
ああ、この程度のことで取り乱すなと、喉が枯れていなければ言ってやるところだ。
肌の焼ける熱風も黒煙のきな臭さもないのに、頭の中はごうごうと鳴るばかりで、仙蔵は未だ業火の中にいるようだった。瞼の裏に張り付いた燃え盛る業火が、音までも焼き尽くす。しかしそれでも、この顔を見れば何を言いたいのか聞かなくてもわかった。
聞こえなくても、わかるのだ。

(だから、そう不細工な顔をするな)

更に不細工に拍車がかかって、思わず笑ってしまうだろうと、仙蔵は目を細めた。
文次郎は仙蔵を引き寄せその頭を胸にかき抱く。仙蔵は逆らうことはしなかった。触れ合った身体から、文次郎の鼓動が響くのを感じていた。
業火の前の爆風と爆音。そのただ中に居た仙蔵は、聴覚を失っていた。





聾唖が微笑んだのは何故






10.02.18
一時的でも一生でも萌える^q^

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