鵺式。
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※ちったくなった仙蔵
「う、わ、」
「どうだー!楽しいか仙ちゃん!」
五年ほど若返ったらしい仙蔵は、小平太に肩の跨がり遊ばれて、いや、遊んでいた。
全力で飛んで跳ねて駆けてしている小平太の頭に必死でしがみつきながら、なんだかんだ降ろせ離せと言わないのだから本人も存外楽しんでいるらしい。
かくいう文次郎と言えば、その様子を六年長屋の縁側に座り込みぼんやりと眺めている。
なんとか宥めすかして仙蔵を頭から剥がすことに成功した文次郎は、学園長に仙蔵のことを報告した。その帰り、どこから聞き付けたのか(まあ大体の想像はつくが)、「仙ちゃんが縮んだってー!?」と突撃してきたのが小平太だ。
そのまま拐われるように仙蔵を担ぎ上げて、あの調子である。
最初は慌てたが、よもや小平太が仙蔵を落とすようなこともないだろう。今はこうして腰を落ち着けているのだが、
「それにしても仙蔵可愛いなあ、ねえ留さん」
「まあなー、性格は相変わらずキツいけど」
「………」
なぜ、は組が隣で暢気に茶をしばいているのか。いや俺の分はいらん。
「文次郎なんか可愛くてしょーがないでしょ?」
急須片手にそうにこにことのたまったのは伊作だった。
顔がでれでれにだらけきっていて、もうすっかり孫びいきの爺さんが板についてきている。
いきなり何を言い出すのかと、文次郎は顔をしかめた。
「…手が掛かるとは思うが」
「ええー、文次郎って子供嫌いじゃないよね?」
子供、と聞かれて文次郎は内心首を捻る。
一番に浮かんだのは会計委員会の後輩達だ。確かに厳しくしているのは自覚しているが、別にあれが嫌いだからそうしているのではない。むしろよかれと思っている。
「嫌いじゃねえ、と思う」
「委員会の一年は可愛がってるもんね」
「可愛がってんのかあれ」
「うるせえ余計なお世話だ」
余計な茶々を入れてきた留三郎と睨み合った。
さあ怒鳴り散らすぞ、というところで考え込んだ様子の伊作が遮る。
「でもそれ考えるとよっぽど仙蔵の方が大事にしてるように見えるなあ」
その話題はまだ続くのか。
出鼻を挫かれた留三郎が目を逸らし、手元の渋そうな茶を啜った。
据わりの悪い縁側で、文次郎は溜息混じりに中庭を見遣る。犬のように駆け回る小平太に担がれて仙蔵の首がガクガク揺れているが、あれむちうちになったりしないか。
「…別段扱いを変えてるつもりはないが」
「ああ、なるほどね」
仙蔵を目で追いながら意識せず呟くと、伊作はしたり顔で笑った。
「つまり、文次郎にとってはちっさくてもおっきくても、仙蔵は可愛いんだね」
「あ?」
一瞬、何を言われたのか理解できず呆ける。次いでかっと顔に熱が集まった。
魚のように口をはくはく開け閉じしている文次郎を見て、伊作がふふ、と息を吐くように笑う。その後ろからまじまじと見ていた留三郎と目が合った。苦虫を噛み潰したような、苦虫を見るような、馬鹿を見るような目だった。
「うわ、気色悪っ、きもんじ」
「ああ?!幼児趣味のてめえに言われたかねえ!」
「誰が幼児趣味だ!」
「ああもう喧嘩しないで二人とも!」
また違う意味で頭に血が昇った文次郎が売り言葉に買い言葉、ついに掴み合いの喧嘩になった。
それに挟まれた伊作がどうなったかは、推して知るべし、だ。
「なにをしているんだあれは」
「さあなー、いつものことだし気にするな!よーしっ、もっかい行くぞ仙ちゃん!」
「う?!よ、よしこいうびゃああああ」
11.10.11
初恋だからしょうがない