鵺式。
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※ちったくなった仙蔵




気がつけば、すでに日は頭の真上、正午を回ろうとしている。
風通しのため開け放っている戸から差し込む日差しにそう判断した文次郎が、そろそろ一度様子を見に行くか、と思うや否や、その時だった。

「くるなあああああっ」

絹を裂くかのような悲鳴とともに会計委員会の教室に飛び込んできたのは、何と目にいっぱいの涙を溜めた、小さな仙蔵だった。驚いて何か言う間もなく、仙蔵は文次郎に駆け寄ると素早くその長身によじ登る。
顔面を抱きこまれ声も出すことも出来ず硬直していると、間を置いてどたどたと廊下を駆けてきたのは、仙蔵の天敵とも言うべきか、福富しんべヱと山村喜三太だった。あ、いたいたー、と間延びした声で笑いながら二人が文次郎の傍に近づいてきたのに、文次郎はことの成り行きを悟って溜息をついた。

「わ、私に近づくな!」

仙蔵はすでに涙声だ。普段はのらりくらり逃げているようだが、この小さな体ではそれもままならないらしい。
張り付いている仙蔵の腕を引き剥がし、その体をひょいと肩に担ぎ座らせた。それでもすぐさま仙蔵は文次郎の顔面に縋りついてきて、ぶるぶると震えながら文次郎の頭に顔を埋めている。
そこまでか。実は普段この後輩たちに追い回される仙蔵を見て少し微笑ましく思っていたのだが、今度から見かけたら助けてやったほうがいいのだろうか。
顔面の前に垂れてくる仙蔵の髪を払って、文次郎は下から仙蔵を覗き込むしんべヱと喜三太に問いかけた。

「…何事だ」
「はいー、僕達委員会で用具倉庫を点検してたんですけど、そうしたら突然その子が入ってきてー」
「知らない子だけど一年生の制服を着てるので、編入生かと思って声をかけたら逃げちゃったので追いかけてきたんですー」

しんべヱと喜三太は、ねー、と顔を見合わせた。
なるほど。大方、火薬を扱う過程で必要なものを借りにでも行ったのだろう。
案外、一番自覚が足りていないのは小さくなった本人かもしれない。ただ、このことで身には充分染みただろうが。
そうか、と答えて、文次郎は会計室を振り返った。
会計委員が一様にこちらを見て口を大きく開けたまま呆けている。なんだかもう、踏ん切りがついてしまった。

「…こいつは訳あって学園で預かっている。制服を着ているが生徒ではないし、人見知りする性分だから自分から話し出すまでとりあえず放っておけ。わかったか?」

しんべヱと喜三太は残念そうに頷いた。根はいい奴らだから遊んでやろうとでもしたのだろうが、まあこのなりでこれも仙蔵だ。諦めてもらおう。

「本日の会計委員会の活動はこれまでとする。悪いが片付けといてくれ」

え、はい、と戸惑いながらも返事をしたのは田村三木ヱ門だった。まだまだと思っていたが、こういうところはもう立派に上級生だ。うむ。
と、なんだかんだ適当にしつつ、文次郎は会計室をあとにした。そもそもこの状態の仙蔵を置いてまともに学園生活を送れというほうが無理というものだ。
しかしこの仙蔵の存在が他の生徒にも知れてしまったからには、やっぱり学園長には報告しておいたほうがよさそうである。

その足で、文次郎は学園長室へ向かった。
ところで、この頭に貼り付いている仙蔵はいつになったら離れるのだろう。鍛えているとはいえ、そろそろ首の筋を違えそうだ。





11.10.11
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