綾部喜八郎
平滝夜叉丸
田村三木ヱ門
斉藤タカ丸
※現代パロディー


きちゃだめ




同級生(でも年上)のタカ丸さんが高熱で動けないと聞いたので、お見舞いに行こう、ということになった。
ことの顛末は、

「なにぃ!?タカ丸さんが寝込んでいるだとッ!すぐさま私の美貌で元気を出してもらわねば!!」
「何を馬鹿なことを言ってるんだ!ぜひ僕の特製火薬ご飯で精をつけてもらおう!!」
「『今から行きますよー』ってメールしたら『きちゃだめ』だって」

という一連の流れ。
『きちゃだめ』と言われたものの、それでも一人暮らしの体調不良なんてろくなものもお腹に入らないだろう、ということでスーパーで缶詰やうどんを買った。三木ちゃんは火薬ご飯の材料も買ってた。
その間にも『絶対きちゃだめだからね』とメールが来た。

玄関の脇の植木鉢に鍵が隠してあるのは(今時どうかと思うけど)知っていたから、メールを返す元気があるなら、とみんなでタカ丸さんの住んでるボロアパートに突撃した。
勝手に玄関の鍵を開けて「お邪魔しますよー」と入っていくと、やけに寒い。熱があるからってクーラー冷やし過ぎじゃない?と思ったけど、そういやタカ丸さんちにクーラーない。季節は五月を過ぎたくらいで外はぽかぽか暖かいのに。それになんか部屋の中じめじめしてる。やだあ、タカ丸さんカビ生えてたりしない?大丈夫?
タカ丸さんは部屋の真ん中に敷いてある布団に寝てた。真っ白な顔で「きちゃだめって言ったのにー…」って言われたけど、耳元で「何か食べれます?」って聞いたら途端にもの凄い勢いでおえって嘔吐いて、滝ちゃんと三木ちゃんが悲鳴をあげた。
枕元に洗面器があったので、滝ちゃんが慌ててそれを引っつかんでタカ丸さんの目の前に差し出す。タカ丸さんはそこにげーげー吐き続けて、三木ちゃんはずっとタカ丸さんの背中をさすってあげてた。吐瀉物を観察すると、なんかやけに透明で臭いも全然しない。何も食べてないから?でも胃液自体がそもそも臭いはずだよねえ。
タカ丸さんは鼻水と涙をぼろぼろ流しながら吐き続けてる。そろそろ洗面器もいっぱいになりそうってときに、滝ちゃんが僕に「喜八郎!洗面所からタオル持って来い!」って叫んだ。そんなに大声出さなくても聞こえてるよーと思いながら僕はタオルを取りに行った。ついでにトイレからトイレットペーパーも拝借する。

そうして戻ってきたらタカ丸さんはけろっとしてて、なんか顔色もよくなってた。
部屋もいつの間にかぽかぽかしてて西日が明るい。何より洗面器には何も入ってないし、あれだけ盛大に吐いた吐瀉物が飛び散った形跡はどこにもなかった。滝ちゃんも三木ちゃんもキョトン、としている。

「もーこないでって言ったのにー。でもうつらないでよかったよー」

とタカ丸さんは間延びした声で笑った。
とにかくタカ丸さんは元気になって、「お腹すいたー」というので僕たちはみんなでうどんを茹でた。三木ちゃんは火薬ご飯を作りたかったようだけど、タカ丸さんちの戸棚には炭水化物がパスタしかなくて、仕方なくうどんの上に火薬を乗っけた。おいしかった。

後日、無事に学校にやってきたタカ丸さんに、僕は尋ねた。

「あれ何憑けてたんですか?」
「んー?わかんなーい。バイト先(美容室)にきたお客さんに憑いてたんだけど、触らないわけにいかなくてえー」

てへ、とタカ丸さんは肩を竦めた。

君たちが騒がしく入ってきた途端に苦しがってたんだよー。ホント助かった、ありがとねー」

次の給料日に何か奢ってあげるね、とタカ丸さんが言った。僕は心の中で大きくガッツポーズをした。



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