不破雷蔵
鉢屋三郎


本の虫




僕たちは課題の資料集めに図書室へやってきた。
僕たち、と言っても資料に用があるのは僕だけで、三郎は僕に着いてきただけだ。
図書室には中在家先輩が図書委員の仕事をしているだけで、他には誰もいない。
これなら課題も捗りそうだと思っていたのだけれど、そうは問屋が卸さなかった。暇を持て余した三郎がいちいち僕に話しかけてきて、邪魔なことこの上ない。

「ちょっと、邪魔するなら出てってよ三郎」
「やだー」

とゴロゴロ僕の膝の上を転がる三郎。うざい。
三郎は時折中在家先輩にまでちょっかいをかけて、本当に参った。ごめんなさい先輩。
中在家先輩は三郎の邪魔にも動じず黙々と仕事をしていたんだけど、「先輩ってほんと本の虫ですねー」とけたけた笑う三郎の言葉に、先輩は顔を上げた。

「…いる」

ぼそ、と先輩は呟く。そして唐突に立ち上がると、図書室の一番奥にある本棚から一冊の本を持ってきた。随分と分厚い本で、題名は書かれていない。かなり古いのか、紙面は茶黄色く変色していた。自分も図書委員になって長いけれど、はて、こんな本あっただろうか?
先輩はその本を三郎に差し出した。三郎は訝しげにその本を受け取ると、ぺら、と中をめくる。そしてしばらくぺらぺらとめくっていたかと思うと突然手を止め、瞬く間にその本を黙々と読み始めたのだ。
おかげで僕の作業は捗ったし、中在家先輩も静かに仕事が出来た。さすがです先輩!

夕方になり資料集めもほとんど終わり、僕は三郎に「そろそろ戻るよ?」と声をかけた。しかし返事がない。どれだけ集中してるんだろう。三郎の手元を覗き込んで、僕はぎょっとした。

三郎は延々と白紙の本をめくっていた。
ただ、まるでそこに文字が書いてあるかのように、三郎の目線は白紙を追っている。


「せ、先輩っ」

僕は思わず中在家先輩を振り仰いだ。中在家先輩は何も言わず三郎のそばまでやってきて、突然三郎の前でパン!と猫だましをした。
三郎が我に返って、周囲をきょろきょろと見渡している。中在家先輩は三郎から本をひょい、と取り上げた。

「…もう閉める」

僕たちは追い立てられるようにして図書室を後にする。その日ずっと、三郎はどこかぼんやりとしていた。

後日、僕は委員会の仕事で図書室にやってきた。図書室にはすでに中在家先輩がいて、仕事をしている。僕は思い切って先日の白紙の本のことを聞いた。

「…ただの暗示だ」

中在家先輩はそれ以上何も言わなかった。
その後、三郎も一人で図書室に行き例の本を探したが、結局見つからなかったらしい。

「すっごく面白かったのは覚えてるんだけど、どういう内容だったのかは思い出せないんだよなー、あー気持ち悪い!」

と唸る三郎に、「三郎の読んでた本は白紙だったよ」と、僕はなんとなく言えなかった。



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