潮江文次郎

ご神威




俺の実家の村には猫がいない。一匹も。

忍術学園にやってきてから、学園の塀の上を歩いている生き物を見て、
「なんだ、あの動物」
「猫だろう。ボケたのか」
と仙蔵に馬鹿にされた。どうやら本当に猫を知らないらしいとわかって、奇天烈なものを見るような目で仙蔵は俺を見ていた。とにかく、俺はそのとき初めて「猫」の存在を知った。

ずっと気にもしていなかったのだが、最近理由がわかった。
祖父から聞いた話だが、これは呪い、とかそういうものが関係しているらしい。

昔、村では山へ芝刈りなどに出かけると怪我をする者が続出した。
困った村人が、力があると評判の山伏に占ってもらったところ、山の上にある神社の神様のご神威が強すぎるのだという。山伏は猫の爪と髭と目玉を小さな木箱に詰め、神社の境内に埋めた。神様のご神威を削ぐ為のまじないらしい。
それ以来、山に入っても怪我をする者はいなくなった。けれども、村では猫が疫病で全滅してしまった。新しく猫を持ち込もうとしてもすぐに死んでしまう。
神様の祟りで猫が飼えなくなった、と村人たちは言った。

「そんなまさか。猫がいないのは事実だが、実際猫を持ち込んだ奴は村にいるのか?」
「そりゃここらの年寄りは迷信深いから、試した奴なんていないわな。持ち込んで、猫が死んだり神様の罰を受けるかもしれんが、お前試してみるか?」

まあ、そういうわけで、今も村には猫がいない。



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