尾浜勘右衛門

受け継いだ因習




俺の父方の家系は寿命が短い。しかも男限定で。みんなだいたい30前に亡くなっているそうだ。

母にそのことを尋ねようとしても毎回要領を得ない言葉しか貰えず。
だがいつも最後に
「15になったら教えるわね」
と告げられていた。

で、先日俺の15の誕生日だったわけなんだけど。

まとまった久しぶりの休みに実家に帰ったら父方の親戚が集まってて。母さんや、妹たちがいないからどこに行ったのか尋ねると母方の家にいるとのこと。どうしてか男しかいない自分の家に首をかしげつつも、母が家を出る前に用意していったのだろう料理を口に運びつつ父に尋ねた。

「で、なんで父さんのとこの男の人は寿命が短いの?」

無言で手を差し出す父。
その手には小さな巾着袋が握られていた。あけていいかの問いに静かにうなずく父の目は少し濡れているように見えた。

ひもで縛られた口を丁寧にほどいて中を見ると小さな白いかけらが入っていた。掌に出してみればかけらは15.16個ほどで、あとは中でこすれたのか白い粉末が少し手を汚した。

「それはな、」
「大丈夫、言わなくてもいいよ」

今までは全く分からなかったのに、その白いものを見たらすべてがわかったような気がした。これが関係しているのは言うまでもない。

机を囲んでいた親戚の一人が言った。

「15のうちに、誰にも見られないところでそれを4つ飲め」
「…わかった」
「すまんなぁ」
「俺たちの代で終わらせたかったんだが…」
「仕方ないさ、この数以上飲んだら俺たちは25までだって生きられんもんなぁ」
「本当にすまない、勘」

口々に言って涙をぼろぼろ流し始める親戚の兄ちゃん達に俺は何でもないような顔をしながら大丈夫だって!と元気づけることしかできなかった。渡された巾着を握る手が震えていたことを隠すので精いっぱいだった。それから何日か経って母さんたちが帰ってきた。目が真っ赤にはれた母の顔を見てちょっと泣きそうだったが、構え構えとじゃれついてくる妹の前で泣くことはできなかった。

実家にいる間に飲むつもりだった。
けれどいざと思うとなかなか口にできないでいた。

人の骨だ、と考えないようにはしていても口に近づけると腐臭がするようで、結局学園に持ってきちまったんだ。
誰かに見つかりでもしたら大変だと、押入れの化粧箱の棚の裏に隠し棚を作ってその中にしまった。




「それがその巾着なんだ、兵助」

だから、
はやくその巾着を返してくれ。


「それ聞いて、返すと思ったのか?」
巾着の紐に手が伸びる。
「勘ちゃんはほんとうに」
巾着の口があいて
「ばかなのだ」
大きく開いた口の上でそれをさかさまにした。

止めようとした手が宙を掻く。
ざらざらと、口に含んだそれを飲み下そうとする兵助を揺さぶる。
閉じていた瞳が半月形に歪んだ。
ごくり、となる喉に血の気が引く。

そのまま気を失ってしまった兵助にうなだれていた俺の前に兵助の手から投げ出された巾着が落ちた。

震える手で中身を見て俺は自分の口の端が上がったのが分かった。指で掻き出すようにして詰まっていた塊を掌に落とす。


「半分ずつ、だね。兵助」


好きだよ。
の言葉とともにそれを飲み込んだ。



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