川西左近

憑いているもの




お前といると気分が悪くなる。


静まり返る食堂の中、はじめ何を言われているのかまったく分からなかった。そもそもいきなり僕に暴言を吐いてきた彼とはそれほど面識もなく、むしろ話したことすらなかった。授業は何回か被りこそすれ、彼と僕がいるグループは全く質が異なり席が近くなることもなかったはずである。そんな顔だけ知っているだけの赤の他人にこんなことを言われれば固まってしまうのも仕方のないことだと思う。むしろ周りにいた友人たちや委員会の先輩たちを宥める方が先決だったし、うん。なんか、そこまで僕のために怒ってくれる人がいるんだし僕は怒らなくてもいいか、みたいな風にやけに気分が落ち着いちゃったんだよね。

そんなこんなで、件の彼とばったり廊下で出会うと露骨にいやな顔をされたり、ダッシュで逃げられるようになってしまった。そこまで関わりのなかった人にどこか嫌がらせじみた態度をとられてもどこも痛むところはなかったので別段気にはしていなかったのだが。先輩はそうではなかったらしい。彼の友人に問い詰めて彼の行動の真意を聞きだした。又聞きなので詳細が違うかもしれないがそこは許してほしい。

友人曰く、件の彼は霊を見ることができるらしい。できるというよりかは、見えてしまうと言った方が正しいのか。それでも普段からそこまでたくさんの霊が見えるというわけではなく、たまに、ということだった。そんな彼が言ったそうだ。僕の近くにいると変なものがいつもより余計に見えるようになる。しかもそいつらはみんな悪意の塊みたいなやつらばっかりで、彼が自分たちを見ることができると分かるやいなや、一斉にとり憑きにくるという。そんなことが何回も続きついに堪らなくなった彼は、あの日、僕に怒鳴った。

話を聞き終えて僕の抱いた感想はこうだ。だからなんだというのだろう。その話を信じるわけではないが、もしそれが事実だとして僕が意図してやっているわけでもないそれの責任を僕に押し付けられてもどうしようもない。解決につながるような話でなくてごめんね、と謝る先輩にありがとうございましたと返しながら、僕は自室へと戻った。友人たちにこの話を告げようか、どうしようかと迷いながら廊下を歩いていた時だ。

ひょい、と担ぎあげられるような感覚。緑の装束で土臭いからきっと七松先輩だろう。体育委員会でもない僕に一体何の御用だろう。

「仙ちゃん、つかまえたー」
「よくやった、ちょっと連れてこい」
「うん!」

ひゅん、と体が浮いて驚いて目を閉じればくつくつと立花先輩が笑う声が聞こえた。うっすらと目をあけるとどうやらここは屋根の上らしい。少し欠けた月を背後に立花先輩が立っている。

瓦にうつる影に何か変なものが混じっているような気がした。


「こいつはすごいものを背負ってるな」


そこから僕の記憶はなくて、次に目を覚ました時には保健室にいた。目を覚ました途端泣きついてきたしろべえに大げさだなあなんて笑っていると、衝立の向こうから立花先輩がひょっこり顔を出して言った。


「もう、いないから安心しろ」


ちろり、金色の耳が揺れた。



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