小松田優作

おろしたい




母が弟の秀作を身ごもっていたときの話です。
私はまだ三つでしたが、このときのことはよく覚えています。

母は己の身のことなので何かを察したらしく、まだ医者に診てもらってもいないのに私に「弟が出来た」と言いました。父は大喜びで、もちろん私も嬉しかった。すぐに医者を呼んで、母を診てもらいましたが、やはり「おめでたです」と。
もちろん性別など生まれてくるまでわかりませんが、母は「男の子」と断言していました。母は時々そういった予言めいたことを言う人だったのです。
母のお腹が大きくなるにつれ、父や私は母のお腹に耳を当てて生まれてくるのをまだかまだかと待ち遠しく思ったものでした。

しかし、ある寒い朝のことです。
誰かがすすり泣くような声で目が覚めました。
泣いていたのは母でした。大きくなったお腹を大事そうに抱えて、さめざめと泣いていたのです。僕と父は飛び起きて、母に寄り添いました。

母は、途切れ途切れに「この子はだめだ」、と言いました。

父は困惑しながらも、根気強く母の言葉の真意を問いました。僕は戸惑うばかりで、母に言葉をかけてあげることも出来ませんでした。

「この子はいずれ人道を外れ、多くの人を不幸にする。だから、おろしたい」

母は悲しみに暮れながら、そう言うのです。
大事そうに自分のお腹をさすりながら、「おろしたい」とうわ言のように繰り返すのです。その様子に、僕に母の気持ちが痛いほど伝わってくるようでした。
父も同じ気持ちだったのでしょう、父は母を慰めるように、静かに言いました。

「もしもこの子が人を不幸にするというならば、私たちがそれを止めてあげよう。私たちがこの子を大切に育てて、この子が道を違えないようにしてやろう」

父の言葉に、母は泣き崩れました。僕も、声を上げて泣いていました。
そんな僕たちを、父はその胸に抱きしめてくれました。

そうして生まれた子は、母の言う通り「男の子」でした。「秀作」と名付けたのは父です。
僕らは秀作をそれは大切に育てました。健康で優しい子であるように、辛いことがあっても負けない強い子であるように。
秀作は真っ直ぐで一生懸命で、真摯な子に育ちました。僕はあの子を誇りに思っています。あの子を生んでくれた母、僕たちを支えてくれた父、僕らを支えてくれた全ての人に感謝しています。

秀作はなんだか忍術学園でご迷惑をおかけしているようだけど、僕はとても安心しています。
あの子が何かをしでかしても、あそこなら大丈夫だと思うのです。本当に、感謝しています。

でももし万が一何かあったとき、そのときの覚悟も、僕たち家族にはあるのです。



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