善法寺伊作
人魚の家系
僕の母の実家は海沿いの寂れた猟師町で、そこには昔から口伝されている歌があった。
鰯が獲れたら秋刀魚が獲れる
秋刀魚が獲れたら鰤が獲れる
鰤が獲れたら鰹が獲れる
鰹が獲れたら人魚が獲れる
人魚が獲れたら子供が獲れる
子供が獲れたら肉になり
肉になったら鰯が獲れる
という、なんだか不思議な歌だ。
魚からいきなり人魚やら子供に飛躍するんだからね。
僕の母もその由来はよく知らないとかで、僕は母の実家へ法事で行ったときに母の母に当たる、つまりは僕の祖母にその歌について聞いてみた。
祖母は「歌には続きがある」、と言った。
鰯が獲れぬし秋刀魚も獲れぬ
鰤も獲れぬし鰹も獲れぬ
人魚も獲れぬし子も獲れぬ
こぞ(去年)に獲れたは人魚の子
稚児がその子を食らぶれば
稚児は見事な餌になりて
鰯は町に戻り来る
人魚って何?と聞くと、祖母曰く「女ばかりが生まれる特別な家系」のことだそうだ。
「今は行われていないけれど」、という前置きをして、祖母は語りだした。
大漁の年、その「人魚」の家系には必ず女の子が生まれるのだそうだ。
そして、純潔を大切に守られた子供は不漁の年に、その猟師町の少年と性交する。
少年は交わった時点で「人ではない物」として海に捧げられる。
その一連を歌にしたものだ、と。
祖母の頃には歌だけが残っていて、祖母自身そんな儀式めいたことが本当にあったかはわからないと言っていた。「人魚」の家系も今はどこにあるのかわからないらしい。
ただ母の家系は、母が町を出てよそで僕を生むまで、その家系に男はいなかったそうだ。