土井半助
※現代パロディー


おいてけぼり




仕事で嫌なことがあって、私はふと一人旅を思いついた。
あまり自由に休める仕事ではなかったので、日帰りの温泉旅行に行こうと。

とある山奥の温泉街に車を走らせると、途中、一人の男が身振り手振りで私の車を止めた。
男は友人と一緒に温泉街で待ち合わせしていたが、すれ違ってしまったらしい。この先にある秘湯に行く予定で、友人は先に行っているかもしれないからそこまで乗せてほしい、と。
携帯の電波も届かないというので、仕方なく男を乗せて山奥へ向かった。
しばらく三道を走ると、助手席に座った男が「旧道が見えるでしょう?そこへ入ってもらえます?」と言う。
言われるがまま旧道に入ると、目の前にえらい不気味なトンネルが見えた。得体の知れないものが大口を開けているような、そんな薄ら寒さを感じた。
トンネルの前で降ろしてくれ、と言うので、私は訝しく思いながらもトンネルの前で車を止めた。男は車を降りるとすたすたとトンネルの奥へ進んでいく。

よく目を凝らしてみると、トンネルの中には白いセダンが一台停まっている。
男はそのセダンの横に立って、じーっと中の様子を見た後、こちらへ戻ってきた。

「いやー、おいてけぼりをくらったみたいです。悪いけどまた乗せて戻ってくれませんかね?」

男が恐縮して言うので、不思議に思いながらもまた男を乗せた。
温泉街で男を降ろした後、私は予約していた温泉を満喫してから自分の家に帰った。
翌朝、気分も入れ替えたのだから張り切って仕事に行こうと支度をしているときだ。

ニュース番組で某所温泉街近くのトンネルであったという練炭自殺の報道を見て、私はもう二度と温泉には行かないと心に決めた。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -