立花仙蔵
潮江文次郎
※現代パロディー


知らぬ存ぜぬ




大学で教授の授業とまったく関係のないつまらない話を聞き流していた時、仙蔵からメールが来た。

「わけがわからん。この憤りをおまえにも分けてやる、ありがたく思え」

とかこんな文面だった。
わけがわからなんし何故そんなにも上から目線なんだ、とりあえず「何があった?」と返信したら
「会って直接話してやる。電話やメールじゃだめだ」
みたいな返事が来たので、授業後に会うことにした。
場所は仙蔵が「腹が減った。マックでいいからおごれ」と言ったのでマック。

で、俺のほうが先にマックに着いたので、席で仙蔵を待つことにした。
しばらくすると仙蔵が来たけど、何故か顔色がいつにも増して悪い。
しかも、人が食ってるチーズバーガー見て
「そういうことか…」
と呟いて座りもしない。

何だか様子がおかしいので、落ち着いて話を聞こうと思って
「とりあえず、何か頼んでくるか?」
と言ったら、突然
「ハンバーガーなんて食えるわけないだろ!」
と仙蔵ブチ切れ。
てめーが食いてーって言ったんだろうが!!!
とキレそうになったけど、そこは抑えて
「何があったんだよ」
と冷静に聞いてみると、今度は
「私が悪かったのか。いや、私は何もしてないだろう。」
と半泣き。なので
「俺とメールした後、何かあったのか?」
と聞くが、無言。
こっちも何も言わずに黙っていたら、そのうちポツリポツリと仙蔵が話し始めた。


仙蔵は大学に向かおうと電車を待っていたんだけど、 そこで人身事故に遭遇したらしい。
スーツを着た中年の男がフラフラと線路の方に歩いていって、 仙蔵が「おかしい」と思った瞬間、電車に飛び込んだらしい。
電車は男を文字通り「巻き込ん」で、 あたりにはおかしな色の塊が飛び散ったり、女子大生らしい子が発狂したり 自動販売機の上に何故か男の靴が片方載っていたりと、まさにカオス。 その状況下で仙蔵は俺に、この「憤りを」メールをしてきたというわけだった。

なので仙蔵は、事故にショックを受けるというより完全に怒っていた、ろいうよりか呆れていたらしい。
そして、仙蔵は俺にメールを送りながら野次馬を背に、 その後トイレに行こうと昇りのエスカレーターに乗った。
他の客もみんな興奮していて、
「死ななくてもねぇ」
とか
「すごかったねぇ…」
なんて勝手なこと言ってるなか、仙蔵はおかしなものを見たらしい。

「エスカレーターの手を乗せるベルトがあるだろう?その左横に、70センチくらいのスペースがずっと続いてるんだけが、上の方に、体育座りしてる奴がいるんだよ。始めはキ○ガイが何やってるんだ、と思ったんだが。」

「誰もそいつに気づいてないんだよ。おかしいだろ?あんなとこに座ってたら普通、どんな阿呆でも気付くだろ?マジマジ見てたらそいつ、片方靴履いてない。それで、「さっき死んだおっさんか」と思った。東京だから無関心な奴もおかしな奴もいっぱいいるし私の誤解だと思おうとしたんだけど、それでも悪寒が収まらなくて。だって、私は確実に自分から奴に近づいて行ってるわけだろう。思い切ってエスカレーター逆走しようかと思ったけど、下は警察だらけだし。」

気付いていないフリを決め込もう。そうすれば、これだけ人がいるんだから自分だけが選ばれて何かされるなんてことはない。仙蔵はそう思ったらしい。気付くとそいつとはもう目と鼻の先。「勘違いだ」「ただの変わり者だ」と頭の中で念仏みたいに唱えて、そしてとうとう男と並んだ。


だが、何もない。
「考えすぎか…」
と仙蔵がほっとした瞬間、

「おぃいいいいい!!!!!!!!」

と、ホースを指でつぶしたようなごぼごぼ(?)みたいな音をさせながらもの凄い声で唸られたらしい。 仙蔵が驚いて後ろを振り向くと、
ボロボロのスーツの上に、潰れたトマトみたいなのを乗せたモノが四つんばいになって

「おまえよくハンバーガーなんて食えるなぁああああああああ」

仙蔵はそこで尻餅を着き放心。前にいたおばちゃんに「大丈夫!??」と手を貸してもらうが立ち上がることができず、そのままエスカレーターの終わりまで座り込んだままだったらしい。 それでなんとか待ち合わせ場所のマックまで来て、俺のハンバーガー見て発狂。

仙蔵はこの話を一気に話し終えると

「勝手に死んで勝手に怒るなんて、わけがわからん」
と言って憤慨している様子を見せながら、そのまま席を立つとカウンターでチキンフィレオを注文していた。
おじさん、仙蔵はハンバーガーを食べました。



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